マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
姿はあの頃のまま、捕球音は銃声。
武田翔太が教えてくれた「点検箇所」。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNanae Suzuki
posted2016/02/22 10:30
大谷翔平、涌井秀章につぐ13勝をあげた2015年は飛躍の年だった。課題の四球は減るだろうか。
武田翔太は振る舞いも性格も「あの頃」のまま。
室内の様子を見に入って、「武田翔太にはもう会えないだろうな、えらくなっちゃったからな……」ブツブツ言いながら出口に向かったところに、本人が入ってきたから驚いた。
“得意”の流し目で、彼がこっちを捉えた。
おっ! と向こうもビックリしてくれて、手に持っていたグラブやらスパイクをわざわざ地面に置いてから、こっちへ両手で握手に来てくれる。
そういうところが「武田翔太」なのだ。
すっかり立派になったなぁ……。
「立派なんて、そういう言い方はかんべんしてください」
下を向いて恐縮してしまうあたりも、やはり「武田翔太」なのだ。あの頃とぜんぜん変わっていない。
「今年はだいじょうぶだと思います、考えながらやってますから。いや、考えを変えてやってるって言ったほうが当たってますね」
向こうからそうきり出してきた。
「チェックポイントを3つに絞りました。それがピタッときてるんで」
「だから……きっと今年はだいじょうぶですよ」
以前は、理屈で野球を考えていたという。
ピッチングを理論で考えて、10ほどのチェックポイントを持っていて、そのことで自分を苦しくしていたと武田翔太は振り返る。
確かに地元・宮崎日大高の頃から、訊かれたことに対して、とても冗舌に理にかなった話を聞かせてくれていた。
しかし、多くのチェックポイント、つまり約束事を作ることで、それが自分を必要以上に縛っていることに気がついたという。
「感覚でとらえるように変えたんです、ピッチングを。去年のある時期から。そうしたら投げることがすごく楽になって」
昨季13勝6敗。チームの勝ち頭になった武田翔太は、そう言われて考えれば、夏場からのペナントレース後半にぐっと安定感を増したピッチングを展開した。
「だから……きっと今年はだいじょうぶですよ」
決して“張った”言い方じゃないのも、あの頃のまま。それだから余計に説得力を帯びる。