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井上は米進出目前、八重樫は激戦必至。
W世界戦に世界のボクシング界が注目。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byGetty Images
posted2015/12/29 10:30
ナルバエス戦の圧勝から1年、井上尚弥が久々にリングに立つ。次戦はラスベガスになる可能性があり、見逃せない一戦になるだろう。
勝ち方に注目が集まるのは難しいものだが……。
そういう意味で、今回の井上の試合は、単なる防衛戦というだけでなく、アメリカ進出の前哨戦的な意味合いを持つと言えるだろう。挑戦者のパレナスは世界初挑戦で、24勝中KO勝ちが21ある強打者だが、4KO負けを含む6つの敗北があり、名王者ナルバエスと比べればかなり落ちる。勝敗そのものへの関心より、今回はアメリカ進出に向けて「いけるぞ!」と思わせるようなパフォーマンスが求められているのだ。
「勝って当たり前」という試合はどんなに強いチャンピオンでも嫌なものだが、井上は公開練習の際「今回の試合は今までの試合で一番楽しみ」と笑顔を見せた。けがで右拳を使えない間に左のパンチをみっちりと鍛え、トレーニングによってフィジカルを向上させた。その結果、9月から使えるようになった右は元に戻っただけではなく、以前よりも破壊力が増しているという。父・真吾トレーナーとのコンビで、どんな相手であろうと油断はない。来年に向けて弾みをつける“前哨戦”は大いに期待できると見ていいだろう。
八重樫は1年前の忘れ物を取りに3階級制覇へ。
数々の激闘を繰り広げてきた32歳のベテラン、八重樫は昨年暮れに続く世界3階級制覇挑戦となる。今回は相手こそ違えど“雪辱”がキーワードだ。
1年前の八重樫は、戦闘態勢を十分に整えることができなかった。理由の一つは9月に行われたWBC世界フライ級タイトルの防衛戦で、挑戦者にゴンサレスを迎たことだった。軽量級最強ボクサーとの試合は、キャリア最大の試練であり、この試合にすべてを燃やし尽くして敗れた八重樫は、肉体的にも精神的にも、わずか3カ月というインターバルでは足りなかった。
参謀役の松本好二トレーナーは「試合前の練習で、いつか上がってくるだろうと思いながら最後まで上がらなかった。それでも何とかなるだろうというムードだったが、現実はそんなに甘くなかった」と当時を振り返る。八重樫を下して王者となったペドロ・ゲバラ(メキシコ)がそれほど迫力を感じさせる選手ではなかったことも、ほどよく緊張した雰囲気を作りだせなかった要因だった。
何より陣営が最大の敗因と分析したのが、ライトフライ級にクラスを落としたこと。世界を見渡しても、クラスを下げてうまくいったケースは少ない。八重樫がもともとミニマム級の選手だったとはいえ、階級を下げたのは失敗だったという見方はうなずけた。