ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上は米進出目前、八重樫は激戦必至。
W世界戦に世界のボクシング界が注目。
posted2015/12/29 10:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
今年もボクシング世界戦ラッシュの季節がやってきた。
2015年は29日に東京で2つ、31日に東京、名古屋、大阪で5つの世界タイトルマッチが行われる。世界の2015年ボクシング・カレンダーはこの時期、既に空白となっており、世界中のボクシングファン、関係者が日本のリングに熱い視線を注いでいると言っても過言ではない。
昨年は井上尚弥(大橋)が世界フライ級王座を16度、S・フライ級王座を11度防衛していたオマール・ナルバエス(アルゼンチン)に衝撃の2回KO勝ちを収めて世界をあっと驚かせた。今年はだれがどんな活躍を見せてくれるのか―─。今回は29日の見どころを紹介しよう。
井上のバレナス戦は、米国進出の“前哨戦”。
29日の有明コロシアムに登場するのは、指名挑戦者ワルリト・パレナス(フィリピン)を迎えて初防衛戦に臨むWBO世界スーパーフライ級王者の井上と、IBF世界ライトフライ級王者、ハビエル・メンドサ(メキシコ)に挑戦する八重樫東(大橋)だ。
右拳のけがでブランクを作った井上は1年ぶりのリング復帰となる。ボクシングにおいて、目の前の試合ではなく、その先に目を向けることはある種のタブーとされているが、今回ばかりはそうもいかない。来年の“米国進出”が現実味を帯びているからだ。
ナルバエスに圧勝したことによより、井上には米国ボクシング中継の最大手、ケーブルテレビ局HBOからオファーが届いている。近年では本場アメリカに進出する日本人ボクサーが徐々に出てきているが、向こうからオファーが届く選手はなかなかいない。
きらびやかなリングで、巨万のファイトマネーを手にするチャンスのある本場のリングは、世界中のボクサーが憧れを抱く。日本の若き至宝がそのいわば聖地に来春にも立とうというのだから、はやる気持ちを抑えろというほうが無理な話と言えるだろう。
もともとアメリカやヨーロッパにおいて、軽量級はヘビー級やミドル級などの重いクラスよりも格下とみなされていた。しかしWBC世界フライ級王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が名だたるスターを押しのけてパウンド・フォー・パウンド・ランキングの1位に輝くなど、状況は変わってきている(つまりゴンサレスが全階級を通じて最高のボクサーだと認められている)。井上はデビュー当初「ラスベガスでファイトしたいか?」と問われ、「ボクの階級でそれはないと思う」と答えていた。しかしいまやゴンサレスに対抗しうる才能を秘めた“スター候補生”として、アメリカに迎え入れられようとしているのである。