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オカダ・カズチカ、天龍戦の告白。
不変のプロレス魂。
posted2015/11/24 15:40
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph by
Essei Hara
「最後の相手にオカダを指名したっていうのは、とても源ちゃんらしいなと思いましたね。本当なら自分と価値観の違う相手と、最後の最後に闘おうなんて思わないもんなんですよ、レスラーって。それは昭和のしぶとさじゃなくて、あくまで天龍源一郎という男の感性、しぶとさなんですよ」
「俺の感覚では絶対にそういう選択はしない」。昭和のプロレスを共に築いた盟友・長州力は、天龍が引退試合の相手にオカダ・カズチカを選んだことについて、そう言い切った。
「俺にとっては信じられないことです。それは自分の譲れない価値観を、最後の最後で自分自身の手によって壊したってことですから。それは本当にとんでもないことだと思いますよ、俺は」
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だが、かつてその長州力の顔面を試合中に蹴っ飛ばし、重傷を負わせたことで新日本プロレスを解雇処分となった前田日明は、また別の見解を持つ。その顔面蹴撃事件の根底には、当時、全日本で天龍が行なっていた激しいスタイルのプロレスに対する危機感があったというのは、プロレスファンにとっては有名な話だ。
「天龍さんの引退試合の相手は、いまの若い連中のなかからだとオカダぐらいしかいないんだろうね。あとは飯伏(幸太)とか。オカダとはちらっと会話をしたことがあるけど、ちょっとほかのレスラーとはビット数が違うね。ハードディスクの容量がたっぷりあるという印象を受けた」
対極の価値観を持つ28歳対65歳の引退試合。
この昭和と異なる価値観と、プロレスのセンスに関してハードディスクの容量を存分に持つと評されるオカダ・カズチカという男。そもそも、天龍が最後の相手にこの現代プロレスのアイコン的存在の男を指名したのは、オカダが2012年、2013年とプロレス大賞のMVPを受賞した際、「猪木、鶴田、天龍はボクと同じ時代じゃなくてよかった。ボクと同じ時代じゃ連続受賞なんて無理でしたし」とコメントしたことが天龍の逆鱗に触れたからだ。そして、8月16日の新日本・両国大会(『G1 CLIMAX 25』最終戦)に来場した天龍は、リング上でオカダと直接交渉をして対戦を確約させることに成功した。
両者の年齢差37歳。オカダにしてみれば自分の両親よりもはるかに歳上だ。昭和に活躍したレスラーと過去に闘った経験は、若手時代にタッグマッチで長州力と当たった程度。戦いの前、オカダは「現役バリバリの28歳のピッチャーのボールを、65歳のバッターが打てるのかって話ですよ」と本音まじりの挑発を天龍に対して行なっていたが、たしかにこの一戦は満身創痍の天龍がどこまで意地を見せられるのか、そして、そんな天龍を相手にオカダはどこまで自分のプロレスを表現できるのかというのが焦点のひとつであった。これで身を引く引退試合でありながら、両者ともにその生き様が試されるという難局、試し合い、すなわち“試合”だった。