ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
世界選抜で“控え”に回された1日。
松山英樹がコース外で気づいたこと。
posted2015/10/14 10:30
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Yoichi Katsuragawa/GDO
顔色を変えず、口元はぐっと引き締まったままだった。松山英樹はその瞬間、大きな両手の手のひらを何度か合わせ、じっとグリーンに視線を送っていた。
世界選抜と米国選抜チームがぶつかるプレジデンツカップ。初めてアジアで行われた11回目の今年は、韓国・仁川近郊のトーナメントコースが舞台だった。
両チーム各12人の選抜選手から、2人がペアとなって戦うフォアボールマッチ5試合が行われた2日目。
アダム・スコットとジェイソン・デイの豪州タッグが、フィル・ミケルソン&ザック・ジョンソン組との戦いをドローに持ち込んだ18番ホール。デイのバーディパットがカップに収まり、ギャラリースタンド前の世界選抜の選手、関係者がガッツポーズやバンザイを見せる中、松山はその群衆の中でひとり真剣な顔つきで手を叩いていた。
松山がチームの“控え”に回された金曜日の午後のことだった。
前回はお客さま、しかし今回は主力。
欧州と米国選抜が争うライダーカップに倣い、1994年に始まった2年に1度の対抗戦。今大会は水面下で開幕数カ月前から揺れていた。世界選抜のキャプテンを務めるニック・プライスが、両チーム12選手の戦力差を指摘し、ダブルスで戦う3日目までの試合数を例年よりも減らすよう米ツアーに要請。ボイコットまで示唆し、4マッチが削減された。
確かに世界ランキングをもとにした世界選抜のメンバー構成は、米国勢に比べれば劣勢だった。そんなチームだったからこそ、松山には余計に期待がかかった。試合当週のランクは15位とチームで4番目。最年少選手ながら、前回大会に出場した経験もあった。
その重責は本人も早くから理解し、今年8月には「前回はどちらかというと“お客さん”的な感じで入ってアダムと回った。でも今回は……アダムと回ることはないと思う。アダムと回っても面白いけれど、負けたらヤバいかな」と話していた。
そう考えたのは松山だけではない。スコットはこう言う。「彼は素晴らしい若者で、驚くべき職業倫理を持っていると前回大会でそう思った。あれから何度か練習ラウンドを重ねて互いを理解してきた。
彼が仕事を完遂することに対してどれほど意欲的かということを僕は知っている。表に出る(冷静な)姿とは違うんだ。“ブルドッグ”みたいなんだよ」
大声を張り上げて仲間たちを鼓舞するような立ち回りの器用さはなくても、実力で牽引するという自覚も、周囲から受ける信頼も十分だった。