野ボール横丁BACK NUMBER
「なぜ東北勢が」問い続けた40年。
仙台育英・佐々木監督の模索の日々。
posted2015/08/21 11:25
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
「あと1勝というところまできて、近づいてきたような気もするのですが、この1勝が果てしなく遠いなという気もします。あるチーム(八戸学院光星)は3季連続でここまできて届かなかった。ここからがものすごく遠いんだと思います」
決勝前夜の仙台育英の監督・佐々木順一朗の言葉だ。
その言葉は東海大相模に6-10で敗れた後、こう変わった。
「あと1イニングが、こんなに遠いものなのかと思いましたね。8回が終わって、6-6。どっちが勝ってもいいんだぞというところまで行ったのに……」
終盤、流れは仙台育英に傾いていた。一時は最大4点差までつけられたが、6回裏、1番・佐藤将太の3点三塁打で6-6の同点に追いつく。佐藤将が言う。
「僕の人生史上、あんな歓声を受けたことはなかった」
アルプススタンドの仙台育英の応援に合わせ、内野スタンド、外野スタンドの一般客までもが応援団と同じように頭上でタオルを回し始め、球場全体が仙台育英の背中を押し始めていた。佐々木が振り返る。
「鳥肌が立ちましたね。育英、今度は勝っていいよ、って言われている気がした。これを乗り越えることができれば、甲子園百年の年に、新しい世紀に入れるんだとまで考えていました」
「10回が勝負だな――」思わず出た、心の緩み。
7回の攻撃が始まる前、スコアボードのエラーの数を指さして、佐々木は選手たちをこう鼓舞した。
「向こうはエラーが3個、こっちはゼロじゃないか。相手の方が慌ててるんだぞ。おまえらの方が強いんだ、自信を持っていけ」
4回までに6失点したエースの佐藤世那も、同点に追いついてからは復調。佐々木も「安心して見ていられた」と語る。
9回の攻撃は両チームともに9番のピッチャーからだった。それを確認した佐々木は「10回勝負だなと思った」と話す。