野ボール横丁BACK NUMBER
徹底したインコース攻めも本塁打に!
清宮幸太郎は全く“がばらない”打者。
posted2015/08/17 15:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
驚くべき言葉がもれた。
「ちょっと(バットの)先っぽだったので……」
2-0と早実のリードで迎えた4回裏。先頭打者の3番・清宮幸太郎は、やや真ん中よりのインコース低めの直球を、低いライナーで、観客に「鑑賞時間」をほとんど与えないままライトスタンド前列へ運んだ。
そのホームランに関する第一声が、冒頭の言葉である。
試合前、元プロ野球選手でもある九州国際大付の監督・楠城徹は、前3回戦で初本塁打を記録し注目度が上がる清宮に対しインコース攻めを宣言していた。
「鉄則ですから、インコースは。外、外、外で抑えられるバッターではない」
3回戦で早実とぶつかった東海大甲府の監督・村中秀人も、同様にインコースを攻めさせると語っていたが、実際は、突き切れていなかった。
楠城も東海大甲府戦の映像を見たという。
「(東海大甲府バッテリーは)逃げていましたね。打者に踏み込まれたらピッチャーの負けなんです。バッターの足元を動かしたり、顔を動かしたりするのが、ピッチャーの“術”ですから」
痛みも忘れてバットを一閃した第2打席。
清宮の第1打席、九州国際大付の先発投手・野木海翔は、それを実践した。
初球、ストレートで膝元を突き、清宮は大きく膝を引いて避けた。カウント3-1からの5球目、野木は今度はインハイを突く。清宮は顔をそむけ、上体を仰け反らせながら、止めたバットに当たる中途半端な投ゴロに。
本来とは違うポイントでバットにボールが当たったため、その打席で清宮は親指の付け根を痛めてしまう。次の回から、テーピングを巻いて出てきたほどだ。
4回裏の第2打席。打席に入る前に素振りをしたときは、痛みを感じた。しかし、打席に入ったときは、もはや忘れていたという。
「アドレナリンですね」
初球、「体の近くにくると思った」という清宮が、バットを一閃。快音、初速ともに、打った瞬間にそれを確信する当たりだった。