松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹、英語を公の場でお披露目?
咄嗟にでた「Fore, Right」の一言。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2015/08/06 16:30
サインを待つ子供たちに自ら歩み寄り、最近は言葉を交わすことも増えてきたという松山英樹。身につけた英語力は彼のゴルフ、そして人生をより豊かなものにしていくことだろう。
コース攻略について英語で相談しあう2人。
スタート前、松山はラヒリのゴルフバッグから彼のクラブを1本抜いては、眺めたり、構えたり。「見てもいい?」と尋ねることなくそんなことができるのは、お互いがそれなりに親しい間柄である証拠だ。
「ヒデキとは何度も一緒に回ったことがあるんだ」と、ラヒリ。
「以前、マレーシアで一緒に回った。彼の弟分みたいな選手がいて、その選手とペアでプレーしたこともあるっすよ」と、松山。
ラヒリは28歳。松山は23歳。プロとしてのキャリアも、年齢なりにラヒリのほうが長い。だが、練習ラウンド中は松山のほうが“兄貴分”に見える。体格がいいせいもあるのだろうし、今大会初出場のラヒリが、3度目の出場となる松山にあれこれ質問していたせいもあるのだろう。
「このホール、ドライバー? 3ウッド?」とラヒリが尋ねると、「うーん、風がフォローだったら3ウッドでもいいけど……」と松山が答える。もちろん、英語で――。
そんなときの松山は、とても柔和な顔になる。そう言えば、ロープ際でサインペンを持って立っている子供の姿を見つけると、松山は率先して近寄っていき、その子がもう片方の手で握りしめているフラッグやボールにサインをする。最近では何か声もかけてあげている様子だ。そんなときの彼の目はとても優しい。
「ねえねえ、松山くんって、子供好きだよね」
「うん。そうっすね」
ちょっと照れ臭そうに、しかし否定もせず、松山は笑っていた。
目の前の選手から、常に技術を盗もうとする貪欲さ。
メジャー大会でも世界選手権シリーズでも、当たり前のように出場資格を手に入れて挑んでいく松山にとって、練習ラウンドで誰と一緒に回るか、試合で誰と同組になるかは、もはや脅威でも落胆でもなく、ある意味、日常の「ある1日」の「ある1ラウンド」に過ぎないのかもしれない。
だが、目の前にいるのがタイガー・ウッズだろうが、ジョーダン・スピースだろうが、はたまた無名のアマチュアであろうとも、目で盗み、耳で盗み、五感を働かせて「何か」を得ようとすることに松山は以前から貪欲だ。この日、10番ティでラヒリのクラブをわざわざ手に取って眺めていたのも、きっとそのせいだったのだろう。