eスポーツは黒船となるかBACK NUMBER
その決断は「無謀」か「先見の明」か。
eスポーツを支えた“いい大人”達。
text by
八木葱Negi Yagi
photograph bySANKO.INC
posted2015/07/28 08:00
今では多くのファンが詰めかけ、チケットの争奪戦さえ起こるようになったLJLだが、そこには“大人”たちの尽力の結晶が詰まっている。
「ゲームが上手い」ことを職業能力と考える企業も。
奇しくも鈴木が語ってくれた通り、スポンサー企業にとってもeスポーツは極めて付き合い方が難しい案件だ。
スポンサードをしても、今すぐに利益が上がる分野とはいい難い。しかし、多くの若者の心を捉え、これから急激に成長する可能性を秘めている。一般的な知名度から言えば、まだまだ宣伝効果も絶大とまでは言えないその分野と、どんな距離で関わり、どんなメリットを引き出すのか。
そんな苦悩を抱える企業も多い中、一風変わったスポンサードの理由を語る企業もある。ゲームソフトなどのデバッグを主に扱う「デジタルハーツ」の伊藤達士さんはこんな風にeスポーツを支える理由を語ってくれた。
「私達はPCを売っている訳でもありませんし、何かデバイスを扱っているわけでもありません。では何でデバッグの会社がeスポーツを大切に思っているかというと、『ゲームが上手い人』が私達にとってとても重要な存在だからです。
ゲームのバグを探すデバッグ作業というのは、実際にプレーしながら行います。誰にでも見つけられる物もありますが、難しいステージを実際にクリアしたり、高度なプレーをしないと発生しないバグというのも存在します。つまり、『ゲームが上手い』ということがデバッガーとしてはとても重要な能力の一つなんですね。
eスポーツはこれから盛り上がると思いますが、トップシーンでは選手の競技寿命が短いのも事実。その後のセカンドキャリアとして、是非うちで働くことを選択肢に入れて欲しいんですよね」
東証1部上場企業を辞め、マネージメントに専念。
ここまで2人、会社の仕事としてeスポーツを支える人々を紹介してきた。しかし、もちろん所属していた会社を辞めてeスポーツの世界へ身一つで飛び込んだ人もいる。チーム「DetonatioN FocusMe」(DFM)のマネージャー、梅崎伸幸(32)さんもその1人だ。
「前職は変電所などで使う機械を扱う東証1部の会社で営業をしていました。40歳で年収が1000万円ぐらい、年間休日が120日を超えるような超優良企業で、僕自身安定志向なところがあるので、辞める時は相当迷いました。
2012年にゲーミングチーム『DetonatioN』を作ったんですけど、当初は完全に趣味でした。会社を辞めるつもりもなかったし、何より日本でeスポーツが流行るとも正直思っていませんでした。でもだんだんDetonatioNのスタッフも増えてきて、仕事との両立が難しくなってくる。2014年の段階では25人くらいを抱える大所帯になっていましたが、チームとしての収入は賞金をのぞけば10万円。当然生活できませんよね(笑)。
それでも会社を辞める決断をしたのは、東京ゲームショウで行われた大会でDFMが優勝したのがきっかけでした。3本先取の試合で1-2まで追い詰められて、一旦は負けを覚悟しました。でもその時にチームの選手たちが、手が震えている子もいるようなギリギリの精神状態で逆転してくれたんですよね。
会場も、スタッフも、もちろんチームも僕も泣いて、『ああこれがeスポーツなんだ』って。同時に『このチームと心中しよう、この世界に骨を埋めよう』って思ったんです。
それで2014年末に会社を辞めると決めたら、そこから立て続けにスポンサー企業さんが連絡をくれたり関係が強くなったりして今に至ります。
だから、私の原点はチームです。もちろんeスポーツの普及とか、認知を広めたりとかやることはたくさんありますが、究極的には自分のチームのみんなのために、と思ってやっています」