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なぜか日高産馬が活躍する宝塚記念。
3連覇を目指すエースか、奇跡の馬か。
text by
村本浩平Kohei Muramoto
photograph byYuji Takahashi
posted2015/06/26 10:30
酒井学騎手を背に最終追い切りを行なったトーホウジャッカル。担当の佃厩務員は「不安と期待がハーフハーフ」とコメントしている。
震災の日に生まれ、謎の病を乗り越えた「奇跡の馬」。
2011年の3月11日、東日本大震災による揺れが日高地区を襲ったその数時間後に、トーホウジャッカル(牡4歳)は生を受けた。
幸いにも牧場や繋養馬の被害はなく、順調に成長を遂げたトーホウジャッカルは、より競馬に向けたトレーニングを行なうべく育成牧場へと移動。だが、秋開催でのデビューの見込みが立った2歳の夏に、思わぬトラブルが襲う。
夏の暑さやトレーニングの疲れが免疫機能の低下に繋がったのか、原因不明の熱発を発症。何種類もの抗生物質を投与され、また栄養補給も点滴に頼る中、競走馬らしい成長を遂げつつあった中で、一気に50kg程馬体重を減らしてしまった。馬体の回復を待った結果、デビュー時期は、同世代の馬たちが頂点を決めるレースである日本ダービー前日の5月31日までずれ込む。
しかしそこから勝利を積み重ね、その約3カ月後には、GI菊花賞を日本レコードで制覇。デビューから149日目での菊花賞優勝は、史上最短記録ともなった。
レコードタイムにも証明されている競走能力、そして、更なる上積みが見込める4歳馬ということを考えると、この宝塚記念ではより強くなった姿を見せる可能性は残されている。ただ、8カ月の休み明け、しかもいきなりのGIという条件はあまりにも酷である。
過去にはトウカイテイオーが、約1年ぶりの出走となった有馬記念で奇跡の復活を遂げているが、常識的には強豪メンバーが揃うGIで、長期休養明けの馬が勝利をあげるとは考えにくい。しかし、幾多の困難を乗り越えた「奇跡の馬」であるトーホウジャッカルなら、それも可能ではないかとも想像してしまうのだが……。
社台グループは、未来の名牝候補で勝負に挑む。
社台グループの出走予定馬を見ると、牝馬が13頭中5頭と、思った以上に数が多いことに気付かされる。その中にはオークス馬ヌーヴォレコルト(4歳)、秋華賞馬ショウナンパンドラ(4歳)、エリザベス女王杯馬ラキシス(5歳)といったGI馬たちの名前もある。
近年の社台グループの躍進は、こうした牝馬の活躍によるところも大きい。現役時に優れた成績を残した牝馬は、生まれ故郷の牧場へ帰ると繁殖牝馬、つまりお母さんとなる。その優れた能力は、後世へと遺伝され、競走馬として優秀な活躍を残した牝馬が、再び牧場へと戻ってくる。このサイクルを体現したのが、祖祖母ダイナカールから、親子4代でのGI制覇を果たしたドゥラメンテ(牡4歳)となるのだろう。
ただ、'05年のスイープトウショウ以降、宝塚記念では牝馬の勝利はなく、天皇賞・秋、ジャパンCで牡馬を一蹴したブエナビスタも'10年、'11年に2着。昨年の年度代表馬ジェンティルドンナも'13年の宝塚記念では3着に敗れている。未来の名牝候補たちでも、このジンクスを破るのはなかなか大変そうだ。