岩渕健輔、ラグビーW杯と東京五輪のためにBACK NUMBER
世界と戦えない「武器」はいらない。
ラグビー界の技術・組織信仰を問う。
text by
岩渕健輔Kensuke Iwabuchi
photograph byAFLO
posted2015/04/07 10:40
日本代表の最年少出場記録を塗り替え、大きな期待を集める新鋭ウイング藤田慶和。2019年のW杯では25歳。ここから日本の新たなスタイルを具現化する中心になることができるか。
「ナンバ走り」などのような独自理論の実効性は……?
さらに述べれば、日本古来の鍛錬法に対する盲信めいた考え方が長く定着してきた側面も否定できません。
たとえばトップリーグの中には、器具を使ったウェイトトレーニングを行なわず、選手同士が押し合う練習をしていくことが、筋力アップに役立つと考えていたチームもありました。似たような理論としては、スクラムを組む際に、相撲の立ち合いが参考になるという説も挙げられます。
日本独自の理論を援用して、他の国々と差別化を図っていこうとする気持ちはよくわかります。いわゆる「関節の使い方」や「筋肉の使い方」、「ナンバ走り」のようなランニングのフォームに至るまで、海外の関係者が驚くほど専門的な理論が脚光を浴びている所以でしょう。また日本の古武術や相撲の技術論に、感服すべきものが多数あるのも事実です。
とはいえ、ラグビーのような異なる競技に理論を取り入れようとするならば、科学的、合理的なトレーニング理論と比較した上で、有効性を証明しなければなりません。ところがラグビー界では、そのような検証がなされずにきました。こうして日本はトレーニング理論の分野においても、世界の流れと乖離してしまったのです。
現在の日本の好調は、基礎体力の向上によるもの?
このような現状を打破し、日本代表を真に世界と戦える集団に変えていくためには、何が求められているのか。
私が代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズと最初に取り組んだのは、選手を徹底的に鍛え直し、身体能力を限界まで上げ切ることでした。基礎体力やスタミナの点で世界の強豪に対抗できなければ、自分たちの持ち味を発揮する以前に、勝敗が決してしまうからです。
当初はトレーニングの効果を疑問視する声も聞かれましたが、20代後半を過ぎたベテラン選手でも、運動能力が予想以上に改善されたことはデータにもはっきりと現れています。近年の強化試合で、日本代表が最後まで粘り強い戦いを展開できるようになったのは、選手たちが真のアスリートへと変貌したことも少なからず寄与しています。
ただし私自身は、特別なことをしたとはまったく思っていません。選手は体つきそのものからして変わりましたが、これはあくまでも基礎の基礎、世界と戦うための土俵にようやく立ったに過ぎないからです。