セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
人件費予算は最少、監督は元銀行員。
残留を狙うエンポリの「弱者の兵法」。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2015/02/19 10:30
エンポリのサッリ監督の年俸はセリエAで最も安く、その額はミランのインザーギ監督の5分の1程度といわれている。
チームからは、フル代表に招集される選手まで!
サッリの下で一躍評価を上げたのが、20歳のセンターバック、ルガーニだ。
エンポリの育成組織出身の彼は、昨季サッリに抜擢されてセリエBでトップチームデビューを果たした。プロ1年目にも関わらず42試合に出場し、昇格の立役者になった。
昨年3月のデビュー後、U-21イタリア代表の主力に定着し、10月にはEURO2016予選に挑むフル代表から初招集も受けている。
「3年前からこのチームを作り上げてきたサッリの功績は大きいよ。チームの持っている力を最大限発揮させてくれる手腕がすごい」
指揮官の手腕に心酔する若手選手は、彼ばかりではない。今冬、かつての司令塔サポナーラがミランから1年半ぶりに出戻った。
もちろん、移籍市場で収益の見込めない投資(=不確かな選手獲得)はしない。わざわざUEFAからファイナンシャルフェアプレー監査を義務付けられなくても、クラブの収支バランスにサッリは常に目を配っている。
MFサポナーラのレンタル料として50万ユーロを支出したが、DFルガーニの共同保有権をユーベに350万ユーロで売却したことで、差し引き300万ユーロの黒字に。そればかりか、ルガーニ本人をレンタル扱いでそのまま留まらせたので、サッリは守備の要を欠くことなく、後半戦を戦うことができる。
「相手がどこでも、ゲームすべてを支配させはしない」
エンポリの町の人々の胸を打つのは、いたずらに熱気を煽る「優勝」といった法螺話ではなく、それ自体決して容易ではない残留という目標に向けて、地元出身の若者たちが何倍もの予算を持つ強豪チームの懐へ乗りこみ、死に物狂いで勝ち点1をもぎ取ってくる姿だ。
15日のミラン戦でも、多くの'90年代生まれの選手たちにとってはもちろん、サッリにとってもまた生涯初めて殿堂サンシーロでの勝ち点1を得た。試合後の会見で、サッリは静かに凄んだ。
「(最低予算の)エンポリは、毎試合に負ける可能性がある。だが、相手がどこであっても、90分間のゲームすべてを絶対に支配させはしない」