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年間無失点記録を更新した西川周作。
レガースに刻まれた「笑門来福」。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE.PHOTOS
posted2014/11/07 10:50
横浜F・マリノスを完封し、年間無失点記録を樹立して揚々と引きあげる西川周作。Jリーグ随一の守護神は、浦和に優勝をもたらすことができるか。
西川が狙う「もう一つの」無失点記録。
広島で「攻撃的なGK」としてのスタイルを確立した西川は、'12年、'13年のリーグ連覇に貢献。そしてW杯イヤーを迎えた今年、さらなる成長を求め、環境を変える決断した。再びペトロヴィッチ監督のもとでプレーすることを選び、浦和の8年ぶりのリーグ優勝、自身のリーグ3連覇に向けて突き進んでいる。
横浜戦のあと、無失点記録について聞かれた西川は、即座にこう返した。
「いや、もう1試合やらないと、大分の17試合完封には及ばないですから。それはひとりでやったわけではないんですけど、今季はそれを目指してやってきましたので」
'08年、大分は17試合で相手を完封し、チームとしてのシーズン無失点記録を樹立した。この記録は、ふたりのGKによって築かれたものだ。ひとりは9月以降にゴールを守った33歳の下川誠吾。もうひとりが、9月まで正GKを務めていた22歳の西川である。
浦和のDF陣が振り返ると、そこには西川の笑顔がある。
西川がアクシデントに見舞われたのは、9月13日のことだった。埼玉スタジアムで行なわれた浦和戦の後半、田中マルクス闘莉王と激突した西川は左ひざの後十字じん帯と、左ひざの半月板を痛める大ケガを負う。復帰後もしばらく膝が不安定な状態で、インサイドキックすらまともに蹴れなかった。
「ショックでしたね。本当にサッカーができるようになるのか不安でした」
辛いリハビリに耐えた西川が、その間保ち続けたものがある。それは「笑顔」だった。
笑う門には福来たる――。
大分ユースからトップチームに昇格したばかりの頃、座右の銘になり得る四字熟語をパソコンで検索していて見つけたのが、「笑門来福」の四文字だった。
「これだ! って(笑)。笑顔でいれば、自分もそうですけど、周りに幸せを与えることも可能ですし。だから、試合中も笑顔でいることを心がけています。この言葉はすね当てにも書き込んで、大事にしています」
浦和の守備が安定している理由がここにもある、と思った。どれだけ攻め込まれていても、振り返れば、笑顔を絶やさぬGKがいる。それがDF陣にとって、どれほど安心できて、心強いことか。優勝争いが佳境を迎えた今、DF陣はそのありがたみを改めて実感しているに違いない。
プレーでゲームを組み立てるだけでなく、チームメイトに落ち着きを与え、彼らのメンタル面すらコントロールできる存在――。そんな究極のGK像に、西川は確実に近づいているように思う。