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武藤嘉紀のドリブルはなぜ通用した?
4日間で修正した「パワーとスピード」。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/10/22 10:30
Jリーグでは28節終了時点で11ゴールを決め、得点ランキング6位につけている武藤嘉紀。頭が下がらない状態でスピードを出せる彼のドリブルは、世界と戦ううえで大きな武器だ。
ブラジル相手の1対1、そして勝利。
世界の身体能力に屈したジャマイカ戦から4日後のブラジル戦、武藤は52分に交代でグラウンドに足を踏み入れた。日本では考えられないような、デコボコの荒れた芝生。そんな環境でも、初めて目にするカナリア軍団は正確なテクニックでプレーしている。自分に何ができるか。少ない時間の中でアピールが必要だった。
日本はなかなかチャンスを作ることができず、会場は完全に“ネイマール・ショー”と化していた。しかしブラジルにばかり注がれる歓声を変えるプレーを見せたのが、武藤だった。
68分、左サイドで相手と五分のボールを競り合う。浮き球に対して、武藤が力強く体を前に入れる。すると本田圭佑の元同僚、CSKAモスクワのマリオ・フェルナンデスがバランスを崩した。完全に体のぶつけ合いを制した武藤は、ドリブルで次なるDFに向かっていく。
前に出てきたセンターバックのジウに対して、素早いシザースフェイントを入れ、今度は速さで相手を置き去りにして縦へ抜ける。ゴール前に走りこんできた本田に送ったクロスはDFに反応されてコーナーキックとなってしまったが、前半から1対1の局面でブラジルに圧倒されてきた日本が、初めて上回った。武藤のパワーとスピードの絶妙なバランスが生んだチャンスだった。
さらに試合終了間際にも、武藤はブラジルを相手にパワーを見せ付ける。
左サイドに流れてロングボールを呼び込むと、落下地点で相手DFの1対1に。相手がハイボールを競ろうとした瞬間、武藤はまたしても巧みに体を前方に入れ、背面で相手と接触した。体勢を悪くしたDFを横目に、武藤は落下したボールをコントロール。そのままグイッとゴールを向くと、左足を強振した。
シュートは残念ながらまたしてもカバーに入った選手にブロックされたが、ジャマイカ戦からたった4日間で、武藤は球際の戦いという課題を修正してみせたのだ。
たった4日間で発揮した類稀なる修正能力。
それでも終わってみれば、試合は0-4の完敗。武藤も初めてのブラジル戦を終え、ほろ苦い感情を露わにした。
「積極的に行かないと世界との差は見えないと思いましたし、チームが消極的になっているなか、自分が流れを変えたいという想いがあったんですけど、それも叶わなかった。まだまだ簡単にパスを出すところだったり、自分で行くところの選択が全然良くなかった。そこの質も上げていかないと」
会場を沸かせたシーンについても触れた。
「当たり前に突破できるレベルにはまだ達していないと思いますし、何回も相手を抜いたわけでもない。あそこでいい感触が掴めただけで、自信に変わったわけではない。それを確信に変えられるように、練習でも世界と戦えるだけの準備をさらに意識したい」
ゴールやアシストという結果が欲しかったのは間違いない。しかし短期間で見せた修正能力は、その心身共に高い知性を表すにふさわしいものだった。