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オシムが語るW杯、そしてノイアー。
「GKは唯一、数的優位を生み出せる」
posted2014/09/03 11:30
text by
イビチャ・オシムIvica Osim
photograph by
Sports Graphic Number
メルマガ「イビチャ・オシムの『オシム問答』」。
最新号の中身をちょっとだけ……特別にご紹介いたします!
▼Lesson.87 目次
【1】 〈今週の「オシム問答」〉
「今回の日本が悲劇的なのは、チャレンジしなかったことだ」
【2】 〈オシムとの対話・ネリのレストランにて――第3回〉
「GKは数的優位のプラスアルファを生み出せる唯一のポジションだ」
【3】 〈オシム、日本のワールドカップを語る〉
「リスクを冒すのが若さの特権だが、日本はそうではなかった」
【4】 〈オシムの教え〉
「試合前から勝者がわかる試合など、大した面白みはない」
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【2】 〈オシムとの対話・ネリのレストランにて――第3回〉
「GKは数的優位のプラスアルファを生み出せる唯一のポジションだ」
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オシム:むしろ私は他のスポーツを真似て、攻撃の時間に制限を加えるべきだと考えている。ある特定の時間をすぎてもシュートを打てなければ、相手に次の攻撃権を渡す。
――それはJリーグでは特に有効ですね。
オシム:あるいはファールを犯すことなくボールを奪う。そしてゴールキーパーは、ボールをリリースするまでにあまりに時間をかけ過ぎている。ボールを持ちすぎて、プレーを遅くしてしまっている。
――ルール上は6秒の猶予がありますから。
オシム:抜け目のない選手は、このルールをうまく利用している。手で扱えるようなバックパスを何度も繰り返し、狡猾に時間を稼いでいる。それは一種のイカサマだ。
――そうかも知れませんが、例えばノイアーは新たなゴールキーパーのスタイルを……。
オシム:ゴールキーパーが素早くプレーすれば、プレーそのもののスピードが加速化する。リズムも生まれ、それだけですでに悪くない。
――フィールドプレイヤーのようにプレーするわけですね。
オシム:ゴールキーパーがプレーを加速化すれば、ピッチ上のすべてでプレーが加速化する。ボールをキープしたがる選手も含めてすべてだ。すべての部位を変えていかねばならない。モダンなスタイルに更新していく必要がある。
GKに関しては、長くオランダが支配的だった。
――あなたは以前ファン・デルサールがまるでフィールドプレイヤーのようにプレーしていると述べましたが、今はノイアーがそうではありませんか?
オシム:どういうことだ?
――ノイアーはボールコントロールにもとても長けています。
オシム:それは練習を積んだからだ。
――彼は新たなモデルになるのでしょうか?
オシム:ゴールキーパーに関しては、オランダが長くこのポジションで支配的だった。彼らのトレーニング方法がそうであったからだ。オランダではゴールキーパーも、最初から(フィールドプレーヤーのように)プレーをすることが求められる。そこからすでに違いがあった。オランダではすべてのゴールキーパーがそうで、大きな進化を遂げていた。プレーに参加し、最後尾のリベロの役割を担っていた。
ノイアーも何度もゴールから飛び出し、まるでリベロのようだった。本物のディフェンダーのようなプレーぶりだった。テクニックに優れ、味方にパスを簡単に渡せる。だからプレーがすぐに始まる。
もちろん今は、どこもゴールキーパーの進化に力を入れている。というのも数的優位のプラスアルファを生み出せる唯一のポジションであるからだ。そこに優れた選手がいれば、うまくコンビネーションが取れるしフィールドプレーヤーのように彼を活用できる。とりわけ身体が大きく、タイミングよく飛び出して優れたアスリートであれば申し分ない。多くの可能性が開けてくる。大きな前進だ。
サッカーには様々な可能性がある。だからこそよく考えるべきだし、足を地にしっかりとつけるべきだ。話は戻るが、私は金を完全に排除しろとは言わない。そうなったらカタストロフィだが、金は静かにかつ着実にこの世界を侵食しつつある。