プロ野球亭日乗BACK NUMBER
主力選手を次々と二軍に降格。
原巨人が見据える「本当の正念場」。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/08/08 10:30
92試合終了時点で51勝40敗1分。2位の阪神とのゲーム差はわずか1.5。シーズン終盤戦、原巨人はこのリードを守り切り、リーグ3連覇を達成できるか。
今の巨人にONや松井秀喜のような軸はない。
決して今もチーム状況的には楽ではない。それでも思い切って選手に時間を与えて、再調整をさせることを決断した。澤村をファームに落とし、疲れの見えた香月にも再調整の時間を与えた。菅野はローテーションを1回飛ばせば復帰可能という見立てもあったが、それでも抹消してケガを完全に治させるとともに、体調を整えさせる狙いもあった。またアンダーソンや片岡にも、もう一度、二軍でリフレッシュする機会を作った。
すべては1カ月先の戦いを想定した決断だったわけである。
今の巨人は、V9時代のONや、1990年代後半から2000年代初頭にかけての松井秀喜外野手のような絶対的な軸のあるチームではない。
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「だからウチはチーム方針として4番打者でも送りバントもあるし、進塁打もあるということを徹底している。チーム全体で勝利をつかめる野球。そのために選手には自己犠牲を求める」
軸のない打線なら、機能的には4番も9番もない。4番から始まれば4番が1番打者の役割を果たさなければならないし、5番が2番の役割を務めなければならない。下位打線で走者をどう還すか。それを考えるのがベンチワークということになる。
チーム全体で勝利をつかむというのは、そういうことなのだ。
トータルベースボール実現のために、今策を打つ。
1974年のワールドカップで一世を風靡したオランダサッカーは、全員攻撃、全員守備のトータルフットボールだった。それに倣って言えば、いま巨人が目指すのは全選手が状況次第でリードオフマンにもなりポイントゲッターにもなるトータルベースボールなのである。
「枢軸」打者のコンディションが上がってくれば、それに越したことはない。ただ逆に、「主砲の阿部の状態が悪かったから」「4番の村田が打てなかったから」……それを敗北の理由にすることはできない。それでも勝つためにはトータルベースボールが必要であり、正念場でそういう戦いができるかどうかなのだ。
そのために今、策を打つ――だから監督・原辰徳の信念に、揺るぎはないのである。