ブラジルW杯通信BACK NUMBER
「メッシ対ドイツ」を超える戦いを。
決勝に相応しい個の激突が見たい。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byGetty Images
posted2014/07/12 10:30
満身創痍のアルゼンチンにとって、頼みの綱はメッシしかいない。決勝戦ではさすがに走るのか、それとも「走らずに決める」スタイルを貫くのかも見所だ。
メッシの嘔吐を止めた、ゴールがもたらす好循環。
対するアルゼンチンは楽と言われたグループFでボスニア・ヘルツェゴビナに2-1、イランに1-0、ナイジェリアに3-2と、すべて1点差勝利ではあったものの、しっかりと勝ち点9を得てのグループリーグ突破となった。
ところが決勝トーナメント1回戦でスイスに延長戦まで持ち込まれると、準々決勝のベルギー戦ではメッシ・システムの立役者であるアンヘル・ディマリアが負傷退場するアクシデント。さらにオランダとの準決勝ではPK戦にもつれての勝利と、消耗度は高い。ドイツに比べて休養日が1日少ないことも気がかりだ。
そんな中だからこそ、期待も注目も高まるのがエースのリオネル・メッシだ。自身3度目のW杯を主将という立場で迎えている今大会では、グループリーグ3試合4得点を含めた決定力でチームを牽引している。
W杯イヤーの今年は度重なる嘔吐に悩まされてきたが、6月7日にアルゼンチン国内で行なわれたスロベニアとの壮行試合を最後に、ブラジル入りしてからは症状が出ていない。おそらくこれは初戦で決めた自身のW杯2大会ぶりのゴールがもたらしている好循環だ。
神の子の重圧から解放されるには、W杯で優勝するしかない。
'09年12月に自身初のバロンドールに選ばれて臨んだ前回の南アフリカ大会では5試合無得点に終わり、チームはベスト8で敗退。バロンドールの呪いを体現してしまった。
今回このタイミングで出た「嘔吐」は、様々な検査をしても原因が分からないという以上、バルセロナでのきらびやかな経歴とは対照的に、アルゼンチン代表として活躍できていないというプレッシャーからくる症状だった可能性はある。神の子メッシとて、いや、神の子だからこそ受ける重圧。彼ほどの選手がそこから解放されるには、W杯優勝というタイトルを手に入れる以外にないのかもしれない。
アルゼンチンが前回決勝に進出した'90年イタリアW杯では、決勝トーナメント1回戦でブラジルに1-0、準々決勝でユーゴスラビアにPK戦勝利、準決勝でイタリアにPK戦勝利と、薄氷を踏みながらの決勝戦進出だった。GKの活躍もあったが、攻撃の武器はマラドーナだけというもろさもあった。