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錦織圭、ウィンブルドン16強で散る。
クレー、ハードに並ぶ「芝の切り札」を。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2014/07/02 11:30
177cmの錦織圭は、トップ選手たちの中ではかなり身長が低い。ビッグサーブが物をいう芝コートでは大きなビハインドとなるが、それを覆す「切り札」を見つけることが躍進の鍵となる。
試合展開を激変させた、わずか2つのミス。
しかし、展開は第2セット第2ゲームに暗転する。錦織のミスがきっかけだった。30-0としながら、凡ミス2本で30-30。不利なジャッジもあって、錦織はこのゲームを失った。
錦織が試合後、「悔やんでいる」と振り返ったのがこの場面だ。これを境に錦織の集中力が目に見えて落ちた。
理解できないことではない。ラオニッチは最初のゲームを別にすれば、まったく隙を見せていなかった。緊迫した展開の中で犯した、悔やんでも悔やみきれない失策。その重さが錦織の背中にのしかかったのだろう。
逆に序盤の硬さもほぐれたのか、ラオニッチは調子を上げていく。ファーストサーブは最速で時速227kmを計測。コースも厳しく、錦織はこれを見送るしかなかった。回転をかけたセカンドサーブも大きく跳ね、錦織の体を大きくのけぞらせた。エースの総数は35本。ファーストサーブ時のポイント獲得率は85%に達し、セカンドサーブでも59%の高い得点率だった。
試合後、錦織はサービスリターンについてこう振り返っている。
「一番(苦しんだの)はリターンゲームで自分がどうにもできなかったこと。コースを読めず、いろいろ工夫したがどうしようもなかった」
優位だったはずのストロークでも徐々に……。
もうひとつ、見逃せないのはラオニッチのグラウンドストロークだ。
フォアハンドに比べ、バックハンドが弱いと見られている選手だが、この試合ではその使い方がうまかった。錦織の強打と角度のあるショットを封じるために、勢いを殺したスライスを深く送り込む。錦織が攻めあぐねていると、先にダウンザラインに仕掛けてきた。加えて高い打点からのフォアハンドの強打もあり、解説者の土橋登志久氏も「緩急がいやらしかった」と感心するプレーぶりだった。
試合が進むにつれて、ストローク戦でも錦織の優位は揺らぎ始めた。頼みのリターンゲームも、ストローク戦も、思い通りに運べない。錦織は“出口なし”の状況に追い込まれていったはずだ。
6-4、1-6、6-7、3-6。錦織の完敗だった。日本男子として1995年の松岡修造以来のウィンブルドン8強入りはならなかった。