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ドメネク元監督が語る「フランス病」。
現代表に'98年の“奇跡”は起こるか。
posted2014/06/14 10:40
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Getty Images
さすが世界最大のスポーツの祭典だけあって、ありとあらゆるW杯関連の本が溢れている。ナンバーからもW杯の名鑑が発行されているので是非ご覧いただきたいが、どうせ1カ月間サッカーに入り浸って生活するのなら、時には少し毛色の違った副読本――文化論や社会論、あるいは告発ものに手を伸ばしてみるのもいい。
開催国、ブラジルサッカー関連の書籍では、アレックス・ベロスの『フチボウ―美しきブラジルの蹴球』などがおすすめできる。他方、ヨーロッパサッカー絡みで面白い作品の1つが、フランス代表チームの元監督、レイモン・ドメネクの手になる『独白』だ。
フランス代表を蝕んだ、強大な「エゴ」。
タイトルからもわかるように、この本はドメネクの回想録という形式をとっている。時期的には代表監督に就任した2004年7月から、2006年のW杯ドイツ大会、ユーロ2008を経て、南ア大会の不振を受けて解任されるまでの実体験を網羅したもので、原書は2年前にフランスで発行された。
たしかに元監督や有名選手による回想録は、他にも多数出版されている。だが『独白』が類書と異なるのは、フランス代表を蝕む「病」にスポットライトを当てた、一種の告発本になっている点だ。
日記形式で明かされるフランス代表の実像は、恐ろしいほど生々しい。彼らは超一流の才能を持つ代わりにエゴの強さも桁外れで、中には誰にもコントロールできない難物と化し、チームを内部崩壊させていく選手もいる。
怪我などおかまいなしに、自分は試合に出て当然だと思い込んでいるビエラ。「右サイドでプレーするなら、試合に出なくてもいい、どうせ来年はレアル・マドリーか、チェルシーでプレーする」と公言するリベリー。W杯南ア大会のメキシコ戦中に、ドメネクを「このくそ野郎!」と批判し、代表から追放処分を受けたアネルカ。
アネルカの追放が選手の反発を呼び、練習のボイコットにまで発展したことは記憶に新しいが、モンスターと化した選手の例は他にも山ほど出てくる。加えてメディアやクラブチームの関係者、フランス協会や政界までもが内紛に絡んだために、チームの置かれた環境は一層不安定なものとなった。