ソチ五輪EXPRESSBACK NUMBER
皇帝プルシェンコの華麗なる復活劇。
少年のような笑顔と、永遠の向上心。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph bySunao Noto/JMPA
posted2014/02/10 16:30
フリーの演技を終え、満足げな表情で観客の大歓声に応えたプルシェンコ。31歳、フィギュアスケーターとしてはかなりベテランと言っていい年齢だが、衰えるどころか凄みを増してきた。
フィギュアスケートの皇帝エフゲニー・プルシェンコが、新境地の演技で歴史に名を刻んだ。新種目の団体戦で、ショート、フリーともに4回転を成功させるとチームに金メダルをもたらす。ショートは羽生結弦の次点、フリーは首位と、怖いモノなしの状況だ。このまま個人戦も表彰台、いや、金メダルさえ圏内とウワサされ始めた。プルシェンコ復活の軌跡を追った。
2014年2月3日、プルシェンコはソチ空港に降り立った。ロシアメディアが取り囲んだが、「すべては団体戦の試合後に」と言い、目線だけで記者を一喝。インタビューには答えなかった。
普通の選手なら、気合いを入れて練習を開始するところだが、皇帝は3日、4日とオフをとる。選手村内をリラックスした様子で散歩し、「全ての準備は整っている」と話した。
「everything is good」という別格のオーラ。
初めてメディアの前に現れたのは5日の昼間。羽生結弦、町田樹らと一緒のメインリンクでの練習だった。リンクサイドでウォーミングアップしていると、'92年アルベール五輪王者のビクトール・ペトレンコが挨拶に来る。まるで皇帝に謁見といった様子で、プルシェンコの方が姿勢を崩さない。
そして初練習を開始すると、たった5分後に3回転ジャンプを成功、7分後にトリプルアクセル、10分後に4回転トウループ、そして曲かけ練習で4回転+3回転を成功。開始から20分ほどで早々と練習を切り上げた。「everything is good(すべて順調)」とひとこと残し去って行く。準備といい、気合いといい、別格のオーラを漂わせていた。
迎えた6日の団体戦・男子ショート。4回転トウループ+3回転トウループ、トリプルアクセルと立て続けに成功させると、もう会場はプルシェンコのものだった。もうこの後は、プルシェンコが片手を上げるだけで歓声、投げキスをすれば悲鳴という状況。ノーミスで演技を終えると、拍手の嵐で会場がエコーのようになった。