ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
就活より大切な“今”を求めて――。
米国パシフィック・クレスト・トレイルへ。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byMiki Fukano
posted2013/04/22 10:30
4月26日からパシフィック・クレスト・トレイルを歩き始める予定の大学生・井手裕介くん。
ロングトレイルの第一人者・舟田靖章さんに話を聞く。
事が決まれば、やるべきことを進めるまでである。僕は日本人でPCTを歩いたことのある舟田靖章さんにメールで連絡をとり、アドバイスを求めた。
舟田さんはPCTだけでなく、アメリカの主要ロングトレイル3つを全てスルーハイクした、歩くプロである。その舟田さんのご紹介で、僕は三鷹にある『Hiker's Depot』というお店に伺った。そこは「ウルトラライトハイキング」というPCTをルーツとしたアメリカ発祥のハイキングカルチャーの伝え手として、業界では名うてのお店だ。
スタッフの長谷川さんは2010年にPCTのスルーハイクをしており、準備や装備面のことについて、多くを教えていただいた。
* 地図は膨大な量でかさばるので部分的に破りながら運ぶといい。中には所謂「自炊」をしてデバイスで地図を読むハイカーもいる。
* アメリカのハイカーが個人出版している『Yogi's Guide』という本が虎の巻となってくれる。
* アメリカでは水の浄水が常識。バンダナで汚れを濾して、フィルターを搭載したボトルや薬剤で殺菌する。道具もいろんな種類があるから自分に合ったものを選ぶと良い。
* 食糧や地図などの補給は自分専用の段ボールに入れて、途中立ち寄る予定の町に郵便局留めで送っておくといい。この段ボールをバウンドするように郵送しながら進むので現地のハイカー達は「バウンスボックス」と呼ぶ。
* カリフォルニアはとても乾燥しているから冷え性の井手くんが恐れているほど寒さを感じないはず。洗濯ものは雨が降っていても乾く(本当か?)。
* アメリカビザの入手が、資料の準備などで予想以上に大変なこと。
などなど、教わったことは両手で掬いきれない。
渡航関係の事務手続きは年明け以降にならないと身動きが取れなかったため、直近でやるべきことは、休学に向けた準備と資金集めであった。
「留学ですか?」(大学職員)。「旅がしたいんです」(自分)。
僕が所属している早稲田大学は、休学をするためには担当教諭と面接をして許可をもらわなくてはならないのだ。
大学の事務局に足を運び、スタッフの方に休学の為の面接予約をしたい旨を伝える。スタッフの方は「留学ですか」と聞く。休学を申請する学生の多くは私費留学の為なのだろう。僕は答えに窮し、「旅がしたいんです」とだけ伝えた。
事務員の方の反応を見る勇気はなく、僕は目を泳がせながら、指示を仰いだ。この段階ではまだ、周りの人にも多くを話してはおらず、自分の中でも迷いがあったのかもしれない。それから1月ほどかけて担当教諭との面接を繰り返し、年末には休学が許可された。
一方で、両親には自分でお金を工面すると言ったものの、現状の貯金だけでは予算を賄うのが困難なことも、もちろんわかっていた。
僕はずっと続けてきた出版社と喫茶店でのアルバイトを増やすと同時に、スポンサーの支援を募った。アウトドアメーカーや食品メーカーに企画書を書き、電話でアポを入れ、思いを伝えて物資の援助をお願いした。
この旅を自己満足で終わらせてしまうのはもったいないと考えていたので、多くの人を巻き込みたいと考えたのだ。アウトドア業界の方々は装備や食糧の支援だけではなく、僕にとって必要なことを、時に厳しい口調も交え教えてくれた。