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<シリーズ 3.11を越えて> サッカー日本代表専属シェフ、西さんの味。~今も福島・Jヴィレッジの厨房で~ 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byTsutomu Takasu

posted2013/03/09 08:01

<シリーズ 3.11を越えて> サッカー日本代表専属シェフ、西さんの味。~今も福島・Jヴィレッジの厨房で~<Number Web> photograph by Tsutomu Takasu

西の料理に詰まっている「勝たせたい」という思い。

 前日本代表監督の岡田は西をこう評していた。

「西さんという人は、単に『いい料理を作ればいい』じゃないんだよ。チームを勝たせたいという思いがこっちにも伝わってくる、そんな料理を作るんだ」

 職人気質の頑固さと温かさ。だから周りに人が集まってくるのだろうか。

 各地に散らばっていた従業員に声をかけると、多くの人が西を慕って戻ってきた。

 東電からの要請もあって西は震災から半年後の9月からJヴィレッジでの仕事を再開した。そして広野町の「緊急時避難準備区域」が解除されたことを受け、11月1日には広野町の第3セクターが所有していた施設を借り受けてレストランを開業する。西は復興への思いを乗せ、閉鎖された「アルパインローズ」の名をレストランに付けた。立ち上げた会社の名にも「DREAM」という言葉を入れた。復興という夢を抱いて。

 だが、しかし――。

 現実はそう甘いものではないことを、西は実感させられていく。

憩いの場となった採算度外視の食堂だが、人気定着は難しく……。

 まずJヴィレッジのレストラン。東電からワンコイン(500円)での食事を依頼されると、西は採算度外視で「食べ放題」を売りにした。米など仕入れ値段が高騰しているのにもかかわらず、である。エビフライを一人に7本も持っていかれたこともあった。嬉しい反面、ギリギリの経営を覚悟していかなければならなかった。

「やり始めたころはお客さんに『前まではレトルトだったから、あったかいものを食べられるだけで幸せ』と言われてうれしかった。ここで働くみなさんに、栄養のバランスを取っておいしく食べてもらえればよかった」

 夜はアルコールも出して、憩いの場となった食堂は賑わいを見せた。200人以上入る日もあった。

 しかし作業員の入れ替えも激しく、人気の定着は難しかった。痛手だったのは、昨夏、車両の除染、スクリーニング(放射能検査)設備がJヴィレッジから第一原発に移されたこと。これにより一部の作業員は施設に立ち寄ることなく宿舎と現場の行き来が可能になり、食堂の利用者は3分の1にまで減ってしまった。復興を考えるなら汚染車が町を通らないことはプラスだ。だが経営への影響を考えると、複雑な心境だった。

【次ページ】 経営上の理由で消さざるを得なかった“希望の光”。

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