MLB東奔西走BACK NUMBER
マイナーリーグは本当に過酷なのか?
大谷翔平がもし渡米していたら……。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2012/12/23 08:01
2008年に新日本石油ENEOSからNPBを経ずに、レッドソックスと直接メジャー契約をした田澤純一。メジャー入りに際しては“田澤問題”として騒がれ、これを受け「NPBを経由しない、海外球団からの出戻り」への対抗措置が講じられた。
ドラフト上位指名候補の高校生として初めて直接のメジャー入りを表明していた大谷翔平投手が12月9日、自身の考えを翻意させ、ドラフト指名されていたファイターズ入りを発表した。
ファイターズから強行指名された当初は、入団の可能性ついて「自分自身の考えとしてはゼロです」とメジャー入りの強い意志を示していたが、交渉を繰り返す中でファイターズへの信頼感が芽生え、新たな将来像が確立したということなのだろう。
もちろん大谷の翻意を批判するつもりなど毛頭ない。場所がどこであろうとも大谷自身が心底野球に打ち込める道を進むことが最も重要なこと。ぜひ日本球界で頑張ってほしいものだ。
だがその一方で、ファイターズが強行指名をして以降の日本での大谷関連の報道について、ちょっと疑問を抱いている。
毎年大量の新人選手が入団するMLB。必然的に、競争は過酷だ。
仮に米球界入りが実現していれば大谷が所属していたであろうマイナーリーグについて、『非常に過酷な環境だ』とか『日本のようなきめ細かい指導をしてくれない』等々、その実情を精緻に検証することなく、多くのマスメディアがステレオタイプに報じていると感じたからだ。長年メジャーの取材を続けている筆者にとっては、悲しい報道が多かった。
ファイターズが“球界屈指の育成システム”を誇る球団だというのはいいとしても、だからといってマイナーがファイターズよりも育成が劣るということにはならないはず。もちろん毎年育成を含めたドラフトで10人前後の新人選手が加入する日本とは違い、ドラフトで40人、さらにFA選手扱いとしてたくさんの外国人選手が加わるメジャーは必然的に生存競争の厳しさが違う。だがそんな条件下でも、ドラフト下位指名選手や言語、文化の異なる外国人選手からもスター選手が誕生しているのは紛れもない事実だ。
ファイターズのみならず日本球界に目を転じてみても、ドラフト上位指名選手が必ず期待されたような活躍をするとは限らない。つまり大谷がファイターズ、メジャーのどちらを選んだとしても、彼の成功する確率は大きな違いはなかったのではないだろうか。
「高校より酷い環境のマイナーに行くのはやはり反対です」
そもそも日本には、どれだけ正確にマイナーの実態が伝わっているのだろう。
実は少し前に「大谷翔平のメジャー行きになぜ驚く? 有効な対策を取らないNPBの不思議」というコラムを発表した際、その読者らしき人が「高校より酷い環境のマイナーに行くのはやはり反対」という趣旨の意見をツイッターで発言しているのを目にし、現場で取材を続けている自分たちとのあまりの認識のズレに正直愕然とさせられたことがあった。
すべての人たちが同じような捉え方をしているとは思わないが、実際問題としてマイナーに対する否定的なイメージが頻繁に報道されている現実を目の当たりにすると、やはり日本国内において正しい情報が共有されているとはとても思えなかった。
そこで今回はマイナーの実態について考えてみたい。
個人的にはマイナーが“過酷”だということを否定しないが、選手を取り巻く環境はある意味日本より充実していると考えている。