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現地の宇佐美サポとの会話から――。
ドイツで再発見したJリーグの真価。  

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細江克弥

細江克弥Katsuya Hosoe

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posted2012/10/27 08:02

現地の宇佐美サポとの会話から――。ドイツで再発見したJリーグの真価。 <Number Web> photograph by AFLO

スピードと技術を武器に、ドイツでも独特の存在感を放つ宇佐美。そのスタイルのベースがJリーグで培われたことを、日本サッカーは誇っていい。

日本人選手に羨望の眼差しが向けられるのはなぜか?

 なぜ、日本人選手はブンデスリーガで通用するのか――。

 ホッフェンハイム対グロイターフュルト、フランクフルト対ハノーファー、ハンブルガーSV対シュツットガルトの3試合を観戦して感じたのは、南米から来た助っ人はともかく、欧州の選手たちのボール扱いはJリーガーのそれよりも“雑”であるということだ。ごく一部の選手を除いて、そこにしなやかさはない。

 だから、ふわりと軽やかにボールをコントロールする宇佐美や乾にボールが収まると、他の選手からは感じられない、何かが起こりそうな予感が湧く。自然と観衆の声も高まる。彼らは彼らが持っていないものを持っている日本人選手に、羨望の眼差しを向けているのである。

 日本ではよく「日本人選手に特有のアジリティー(俊敏性)が武器になる」と言われているが、実際に優れているのはそれだけではなく、「ボールコントロールを伴ったアジリティー」であると言える。思えば、Jリーグは助っ人としてやって来るブラジル人選手が驚くほどの“スピード感”、すなわち組織的なハイプレスと目まぐるしい攻守の切り替えが求められるリーグであるから、そうした能力が養われて当然である。

 では、Jリーグになくてブンデスリーガにあるものは何か。欧州4大リーグの一角を担うブンデスリーガを世界のスタンダードに近いと考えるなら、それこそが世界と日本の差である。

ブンデスならではの“球際の激しさ”には理由が!?

 最も目についたのは、やはり球際の激しさだった。それは海を渡った日本人選手がよく指摘するポイントの一つだが、実際に目の当たりにするとなるほどと合点がいく。トレーニング中に選手がバタバタと倒れる光景は、Jリーグのクラブではそう見られるものではない。

 しかしこの球際の激しさは、ミスを前提としていることもよく分かる。ボールコントロールが不安定だからこそミスが起こりやすい。ミスを誘えばボールを奪える。だから少しのミスも見逃さず、激しく身体をぶつける。あるいはミスを誘うように、ボディコンタクトを利用して駆け引きをする。

 Jリーグに不足しているのは、個々の局面の激しさと駆け引き、それから経験だ。日本対ブラジル、ドルトムント対レアル・マドリーを観て、“舞台の不足”はやはり痛感せざるを得なかった。

 それでもJリーグが、ドイツ人が驚くほどに優秀なタレントを育成し、輩出し始めていることは間違いない。もし前述のフィリップにもう一度会ったら、質問に答えることができそうだ。

「日本人選手には“ボールコントロールを伴ったアジリティー”がある。Jリーグはそれを養うのに最適なリーグだから」

 20年目を迎えたJリーグは、これから解決すべき多種多様の問題を抱えている。ただ、ここから巣立った選手が世界で活躍していることは間違いない。“環境”に恵まれない極東の地を土台として強化を図るなら、Jリーグと日本人選手に特有のこのスタイルを突き詰めていくべきである。

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