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グロージャンに「勝たなくてもいい」と。
F1エンジニア小松礼雄の“親心”。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byMamoru Atsuta

posted2012/10/21 08:01

グロージャンに「勝たなくてもいい」と。F1エンジニア小松礼雄の“親心”。<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta

昨季のビタリー・ペトロフ、そして今季のロマン・グロージャン……まだ経験の浅いドライバーの快挙の陰には、必ず小松の活躍があった。ドライバーとの非常に厚い信頼関係は、サーキットでも有名である。

レースに勝つことよりも、まずは完走することが重要。

 もちろん、これはグロージャンを担当する小松の意見であって、事故のもう一方の当事者と必ずしも意見が一致しているわけではない。しかし、ベルギーGPの後、グロージャンが謝罪のメールをフェルナンド・アロンソに送ったとき、アロンソは「事故は君だけの責任ではない」と暗にハミルトンにも過失があったことを匂わせる返信を送っていたという事実もある。

 それでも、事故に関してまったくグロージャンに責任がなかったというわけではない。だから、小松はベルギーの後、こう忠告した。

「とにかく、勝つとかそういうことは忘れて、これからのレースはすべて完走してほしい。完走すれば、君の実力なら6位以上にはなれる。そういうレースを続けていれば、表彰台に上がるチャンスも出てくるし、何かあれば、勝利が転がってくることもある。いずれにしても、今年は勝てなくても誰も文句は言わないんだから」

事故が続けば「彼のレース人生が変わってしまう」。

 出場停止処分明けとなった第14戦シンガポールGP。グロージャンは小松の忠告どおり、だれにもぶつからずに無事完走。「これで立ち直った」と思った矢先、続く日本GPで再び悲劇が起きた。小松が頭を抱えるのも、当然だった。

 レース後、ドライバーとエンジニアはコンピュータのデータを見ながら、スタートの出来不出来、ピットストップ作業、ピットストップ戦略、ドライビングなどについて分析を行うミーティングを開く。しかし、日本GP後のミーティングで小松は、そういった技術的なレビューは行わなかった。

「スタート以外のレースについては何も話し合いませんでした。レースペースがどうだったとか、そんなことを話すような状況じゃなかった。だって、あのレースでの一番の問題はそんなことじゃなかったわけですから」

 なぜ、小松は再び事故を起こしたことを、そこまで問題視したのだろうか。それはグロージャンのレース人生を考えての配慮だった。

「もし、また事故を起こせば、次はもっと重い処分が下される可能性もある。そうなれば、彼のレース人生が変わってしまう」

【次ページ】 韓国GP7位完走の意義は獲得したポイント以上に重い。

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