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戦力を最大化するリーダーの資質は?
NBAの名将も成果をあげた実践理論。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byNBAE/Getty Images
posted2012/07/31 10:30
シャキール・オニールに指示を与えるレイカーズのヘッドコーチ、フィル・ジャクソン。ジャクソン在任中の1999年~2011年にレイカーズはNBAの歴代優勝回数2位を達成 し、黄金時代を築いた。
唯我独尊のシャキール・オニールを目覚めさせたもの。
6回の優勝を成し遂げたブルズを離れたジャクソンは、選手同士の確執が取りざたされたレイカーズのヘッドコーチに就任した。
その際にジャクソンが大事にしたのは、選手の長所を認めることから始めることであった。
ジャクソンの姿勢は特に、SHAQ ATTACKと称される巨体から放たれる豪快なダンクが印象的なオニールに対して効を奏した。オニールは、3年連続NBAファイナルMVPにも選ばれる才能の持ち主である一方で、非常に自己中心的であることでも有名だった。チームが勝利する場合も、自分が目立った上での勝利でなければ気が済まない、唯我独尊のスタイルを貫いていた。
オニールには、試合にフル出場するための集中力や体力が欠けていたのだが、ジャクソンの操縦法は「集中力をあげろ」「体力をつけろ」などという個人の能力の否定が前提となるものとは一線を画していた。
オニールのモチベーションを高めるために、ジャクソンはまず、オニールとの比較でよくとり上げられるウィルト・チェンバレンの一番大きな実績について考えさせた。チェンバレンは、得点王7回、リバウンド王11回など、'60年代から'70年代にかけて活躍した伝説的な選手で、彼の背番号13はレイカーズの永久欠番となっている。
ジャクソンは、チェンバレンは出場時間が長いこと、それだけ出場できる体力・集中力があることをオニール自ら気付くように仕掛け、彼が本来持つ勝負心に火をつけた。つまりオニールの競争心という強みに焦点を当てたコーチングを行ったのである。
オニールもジャクソンの手の上で踊らされていることが分かりながらも、それを受け入れていった。それは、ジャクソン自身が選手の長所を理解し、その長所が最大限に発揮できるように手助けをする姿勢を貫いているからであろう。
このようにメンバーの強みを認識し、その強みを土台にして関係性を作っていくことこそが、リーダーシップを発揮する際の基本になることがみえてくる。
決して弱点の認識や弱点の指摘からのスタートではない点に留意したい。
デニス・ロッドマンが身につけたセルフコントロール。
次に、ジャクソンのリーダーシップがさらに効を奏した別の事例をみてみよう。ブルズにおける、ロッドマンとの関わりである。
卓越したディフェンダーで、屈指のリバウンダーであったロッドマン。7度のリバウンド王に輝いた彼も、コート外では全身のタトゥーや染めた髪など派手なライフスタイルで様々な騒動を引き起こし、問題児扱いされていた。
彼は無口でチームから孤立する傾向にあり、団体行動で必要な規律への抵抗が強かったのだが、ジャクソンは、規律を守ることを押しつけなかった。
たとえば彼は、門限を設けることをしていない。それは門限を設けたとしても、それを守るどころか、破るということに意識が向くからだ。したがって次の日の練習に現れる限り、何時に帰ってこようが文句を言わない姿勢を通す。そのことにより、選手自身が自由の中で自分自身に対するコントロールをすることに意識が向くようにしたのである。
厳しいルールをつくって行動を制限する状況下では、選手はできることよりもできないことにとらわれて反抗すると彼は考えていたのだ。それよりも、選手自身が「できること」に意識を向けられるような仕組みを作る重要性を理解していたのであろう。
このようなことの繰り返しの中で、ロッドマンとの関係性も良好になり、ロッドマンのチームへの貢献度も上がっていった。
これは、まさに視点の転換である。ある枠組み(フレーム)・視点で捉えられている物事を、いったんその枠組みから外して違う枠組み・視点で見ているのである。「規律(ルール)」に対し、全員に守らせ行動を制限するものという見方だけでなく、規律はそもそもメンバーのパフォーマンスを上げるためにあるものだと捉え直している。ルールの制定が選手の反抗心に火を注ぐものであるのであれば、ルールの制定とは違う方法でパフォーマンスを上げる仕組みをつくればよいという見方にかえ、リーダーシップを発揮したのだ。