日本の秘密兵器は、美容コーチと新体操専用のメーク!?

　五輪イヤーの今年はビストロヴァがロシア代表の一部種目を受け持つことになり、日本もロシアが練習するモスクワに拠点を移した。技術や表現力が格段に向上し、精神的強さも身についてきた日本チームは、ロンドンで勝負するために、モンペリエの世界選手権よりもさらに複雑な連携に挑戦している。

フェアリージャパンの選手たちは、山崎浩子強化本部長らの指導のもと、'11年にモンペリエで行われた世界選手権で5位となり、ロンドン五輪出場を決めた。 

「目標は一応、メダル獲得って言ってます。自力では難しいし、はっきり言って全チームが完璧にやったとしたら、よくて5位だと思うんですね。だけど、番狂わせがすごくある競技なんですよ。もう飛び道具なんで、ぴゅーって一瞬で転がっていくこともあるので」

　山崎はそう苦笑する。表彰台に上がるには強豪国のミス待ちという、いわば他力の要素もあるが、当然、日本も失敗は許されない。

　少しでも上位との差を詰めるために、裏方も地道な支援を続けている。たとえば、山崎が「最終的には人の顔を見ますからね。そういう意味では大きい」と話すメークは、公式スポンサーの株式会社ポーラが全面協力する。同社が提供する、世界でも例のない「美容コーチ」や新体操専用のメークは日本の秘密兵器であり、ロンドン五輪仕様のメークパターンも準備中だ。美容コーチの中村千香子は「マットは15mあって審判員までの距離も遠い。目力が伝わらないと演技の表情も伝わりにくいので、それだけ離れても分かるかどうかを検証してメークを作っています」と言う。

　果たして、肝心の選手たちはそんな周囲の期待やサポートに応えられるだろうか。少なくとも、今の彼女たちからは以前のようなひ弱さは感じられない。

　最初に素でぶつかり合った分、選手同士もすっかり打ち解けたようで、今ではいつも行動を共にする。帰国すると、練習後に全員でカラオケに繰り出すのも恒例となった。

妹がAKB入りしていたことすら知らなかったメンバーも。

　メンバーは2年以上、外界との接点がほとんどなく、横田に至っては、妹が知らぬ間にAKB48研究生として芸能界入りしていたのだとか。その合宿生活もあと少しで終わりだ。

「みんなと離れることはあまり考えられないですね。もう第二の家族みたいな感じじゃないですか。ずっと一緒にいるから……」

　と、横田はさみしげに視線を落とす。

　山崎が模索し、切り開いてきた道は決して平坦ではなかったが、彼女たちはあきらめず、必死に食らいついてきた。

　日の丸の戦士として、妖精は立派に目覚めた。来るべきロンドンでは、その華麗なる舞いで世界中を魅了してくれるはずだ。