スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
メダリストの背景にある国家の思惑。
ロンドン五輪で「世界への扉」を開け!
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2012/06/24 08:01
今年3月11日、陸上の世界室内選手権で優勝したイシンバエワ。自ら保持している世界記録の5m1cmの記録は破れず、この日の最高記録は4m80cmだった。
復活しつつあるロシアのスポーツ専門学校群。
設備と教育。
多くの人が参加すれば、そこで能力の高い生徒がピックアップされ、射撃選手への道、つまり軍に籍を置きながら選手となる道が開けていく。
また、ロシアに移行してからメダルの数が減少傾向なのは、国家が推進していたジュニア世代を育成するスポーツ専門学校が閉鎖に追い込まれたりしたからで、その影響がいまになって出ている。
しかし、プーチン時代に入ってから一時期は好景気となり、いまはまた専門学校が復活しているという。選手育成のノウハウはあるわけで、おそらく2年後のソチ・オリンピックを契機にロシアは再びスポーツ大国へと復活するだろう。
イシンバエワの才能を引き出したロシアの“強制力”。
旧ソ連時代のスポーツ専門学校時代の空気をいまに伝えるのは、女子棒高跳びのエレーナ・イシンバエワだ。1982年生まれの彼女は、5歳から15歳まで体操選手としての訓練を受けていた。しかし身長が170センチを超え、「体操選手としては大きすぎる」として体操を諦めざるを得なかった。
ところが、ここからイシンバエワは棒高跳びに転向する。
体操選手と棒高跳びの適性に類似性がある――。
それがロシアの発想法だった。たしかに跳馬は棒高跳びと似たような性質を持つ種目だ。呼吸を整え、助走を行ってタイミングを合わせて踏み切る。空中姿勢が重要なのも一緒。似ているとは分かっていても、選手に競技を変えさせる強制力を持っているのはロシア、あるいは中国といった国家とスポーツが強く結び付いている国で、西側諸国にはそうした強制力はないだろう。
これがアスリート養成の専門学校の強みなのだ。