欧州サッカーのサムライたちBACK NUMBER
日本生まれの北朝鮮代表、鄭大世。
異邦人の疎外感と葛藤を乗り越えて。
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/12/21 10:32
11月にはドキュメンタリー映画『TESE』も公開された鄭大世。詳しくは、『TESE』公式サイトまで http://chongtese.net/
格闘家ばりの屈強な肉体、鋭い表情、力強いドリブルで直線的にゴールに突き進むプレースタイル。鄭大世といえば、そんな男らしいフレーズが当てはまる印象があるが、内面は意外にもかなりデリケートだ。
例えば、たまたまタイミングの綾で友達との食事会に誘われなかったとする。すると、それを気にしてその会の主催者ではなく別の人間に、「オレはあいつにいやがられているのか?」と相談する。話は巡って会の主催者にたどり着き逆に驚かれることになる。「そんなことを気にしているのかっていうのと、オレに直接言ってこない繊細さにびっくりしちゃった」と、証言してくれた選手がいる。「人間関係や後輩への気遣いがすごい」のだそうだ。
年齢にも敏感だ。取材中に若手選手に関することが話題に上ると、「あいつ、若いなあ。オレなんてもう27だもんな。ベテランっすよ」と頻繁に口にする。その雰囲気が、選手としてというよりもどことなく女子っぽくてなんだかおかしい。ただ、選手にとって年齢は差し迫る選手寿命との戦いであることもまた事実。「選手としては、ここからが良い時期では?」と尋ねると「そうですね。ここ2、3年が勝負ですね」と噛み締めるようにつぶやいた。
W杯出場の夢を断たれたウズベキスタン戦での敗北。
だが、その“2、3年後”に想定していたであろうブラジルW杯出場の可能性は、早々と消えてしまった。前回出場国としては、あまりにも残念だ。
「代表で活躍したほうが光は浴びられるけど、クラブでやることはワールドカップがあってもなくても一緒ですよ。代表と行ったり来たりしないでクラブに集中できるし。でも……ワールドカップに参加できないのは残念で仕方ないけれど」
既に敗退決定から時間がたってしまっているため口調はもの静かで淡々としたものだったが、それが逆に切なさを誘う。
鄭大世が敗退の原因に挙げるのが、10月11日に行われた第3戦ホームでのウズベキスタン戦だ。早くも2敗目を喫したことで、突破が苦しくなった。
「あのウズベキスタン戦が全て。ディフェンスはよく守っていたのに、攻撃が機能せず得点できなかった。勝ち試合だったのに、ホームで負けるなんて。フォワードの、オレの責任だと感じている」