チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
ダークホース浮上。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2004/12/14 00:00
レアル・マドリー9回、ミラン6回、アヤックス、バイエルン、リバプール各4回。CLの優勝回数は、欧州サッカーのクラブの名門度を推し量るバロメー
ターだ。勝つばかりが能ではないという考え方も、欧州には確実に根付いているので、それで全てを片づけるわけにはいかないが、サッカーを100%競技として捉えれば、CL制覇に勝る栄誉はない。それを重ねているクラブには、一目も二目も置かれるカリスマが宿ることになる。
だが、栄光が重荷となって跳ね返ってくる場合もある。いまの成績が過去に大きく劣れば、当事者は屈辱感に苛まれる。「かつての名門」という言われ方には、落ちぶれた現在を実感させる辛い響きがある。
最後の優勝は'83年。リバプールを一言でいえば、まさに「かつての名門」になる。いまイングランドの名門といえば、マンチェスター・ユナイテッド。
犬猿の仲にあるリバプールにとっては、面白くない話だ。さらに、近年の成績では、いまだ無冠のアーセナル、新興といっても過言ではないチェルシーにさえも劣る。名門度ではダントツの立場にありながら、現実はイングランドの4番手。なんとか、その座を死守しているのが現実だ。
当然、今季のCLでもリバプールを推す人は少ない。ブックメーカーの優勝予想オッズでは、現在、26倍の10番人気。
しかし、最近2試合のホーム戦は、凄まじい熱気に包まれていた。アーセナルを倒したプレミアの一戦と、オリンピアコスを大逆転で下し、16強入りを決 めたCL「マッチデイ6」の一戦だ。
いずれも劇的。神懸かり的な勝利だった。「コップ」(正面スタンド右手ゴール裏席の通称)から、本家本元の「ユール・ネバー・ウォーク・アローン」の大合唱が始まると、身震いがした。気が付けば鳥肌が立っていた。リバプールの名門たる所以を思い知った気がした。
いまこの瞬間、欧州で最も乗っているチーム。それがいまのリバプールだ。彼らにもはや負け組の意識はない。CLのダークホースに浮上したといっても過
言ではない。彼らは完全な挑戦者でありながら、CL優勝回数3位タイの名門だ。このギャップと、ベニーテス監督の質の高いサッカーが融合している点こそが、リバプールの特徴であり魅力だ。
それはバルサにも共通する。CLの優勝回数は1度きりながら、9度優勝のマドリーに負けないカリスマがある。それはスペインを一歩出た瞬間、明らかに
なる。欧州を旅すれば、バルサファンが各国に広く存在することに気が付く。マドリーよりもミランよりも、数は断然多い。クライフ人気、攻撃サッカーをモットーにする娯楽性が、人気の秘密だと思われるが、そうした現実を見せられると、勝つばかりが能じゃないという思いも湧く。
他に類を見ない特殊な名門。それでいて、いまのバルサには挑戦者としての旺盛な意欲がある。ブックメーカーが5.5倍の1番人気に推すのもうなずける。
だが、それ以外のスペイン勢には勢いがない。満腹感いっぱいのマドリーは、かろうじて16強入りを果たしたが、昨季まで好チームの代名詞的存在だったデポルティーボとバレンシアはあえなく散った。
率直にいって、いまのスペインには元気を感じない。デポル、バレンシアに代わるこれだという好チームが見当たらない。つまりリバプール不在。UEFAランク1位の座は、まだ安泰だが、この状態が続くようだと、2位イングランドに逆転を許す可能性はある。
イングランドの好調の原因は、ポンド高によるところは多い。他国から続々優秀な人材が集まっている。その中にはスペイン人もいる。リバプールはその最たる存在で、今季、ベニーテス監督を筆頭に、シャビ・アロンソ、ルイス・ガルシア、ホセミ、ヌニェスも加わった。さらに、アーセナルのレジェス、プレミア全体にショックを与える17歳、フラン”セスク”・ファブレガスもスペイン人。
デポルのイルレータ監督他、多くの指導者は、こちらに「プレミアは面白い」と語っている。実際、イングランドに行けば、彼らがシンパシーを抱く理由が、おぼろげながら見えてくる。両者の考え方は意外に接近している。
スペインからイングランドへという流れは、今後も続く可能性がある。通貨がユーロに切り替わり、スペインの物価は飛躍的に上昇したが、ブリティッシュポンドは、それ以上に強い。それは、UEFAランク争いとも密接な関係があるような気がしてならないのだ。