セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
勝利はローマに通じる
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2008/12/16 00:00
今年度の欧州チャンピオンズリーグ本大会(以下CL)では初戦から黒星を喫するなど、CL敗退の危機にも直面したローマが首位でグループ戦を突破した。チェルシーを粉砕し、因縁のクルジも敵地で破る追撃態勢のローマ、リーダーはもちろんFWトッティだった。傷つけられても、主役を奪われようとも背番号「10」を掲げる以上は決して悲観しない。これこそがFWトッティの秘めた真の強さなのだろう。とりわけ16強入りをかけたボルドー戦で刻んだ閃光のような1発は、再び世界にその勇名を轟かした。
3試合でローマの運命を変えた主将はグループ最終戦の直後、力を込めた。「1984年の雪辱を果たすためにも5月27日にはこのピッチに立つ」。雪辱。それは24年前のCL決勝戦、タイトルを争ったリバプールとの一騎打ちを示唆している。1984年5月30日、ローマはPK戦の末、リバプールに欧州制覇を略奪された。それ以来、CLの決勝戦は疎遠となり、悩める首都の名門はヨーロッパサッカー界において「2級」のレッテルを貼られることに甘んじてしまった。
「本拠地で行われる決勝戦に観客ではいられない」とトッティは言い切る。たとえ優勝候補のチェルシーを抑えて4勝2敗で16強入りを手にしたとはいえ、現時点では、それは大言壮語に聞こえるかもしれない。しかし死角のない欧州の強豪たちには到底敵わないという甘えはチームにとって強力な「追い風」にならない。こうしてトッティは「CL決勝進出」を誓った。
トッティをここまで大胆にさせたのは、今年度のCL決勝戦が行われる「オリンピックスタジアム」という響きだった。そこはプロ選手としてサッカー人生を歩みだした時から、多数のパフォーマンスを刻んできた聖地である。今季のCLでは混戦から抜け出し、自身も初めて経験するグループ首位の感触とさらなる自信がトッティの心の奥深くに眠っていた欧州一のタイトルへの悲願を燃やしたのだった。トッティに言わせれば、オリンピックスタジアムはかつて本拠地でタイトルを奪われた過去の悔しさを晴らすのに最高の環境。ローマの「ナンバー10」に指名された時点からこの「リベンジ」が責務であることを察知しているだけに、トッティは今季リーグ優勝を棚上げして欧州制覇に賭けたのである。
オリンピックスタジアムに刺激されたのはトッティだけではない。ローマでのCLファイナリストを夢見る一人にユベントスのMFネドベドがいる。2003年にパロンドールを受賞した欧州屈指のファンタジスタは、セリエAルーキーとしてラツィオに入団した1996年から5シーズンの間、同スタジアムにて着実に成長した経緯を忘れてはいない。むしろ、ラツィオを去った頃から「CLのトロフィーをローマの空の下で揚げたい」と口にし、長年親しんだオリンピックスタジアムへの愛着は人一倍強い。5年前の5月28日、出場停止によりマンチェスターの夜空の舞台に立てなかった苦い思い出を払拭させるには、「あのピッチ」で欧州一に輝く以外、手段はないのかもしれない。満36歳のチェコ人は欧州制覇の野望を一気に掻き立てた。
セリエAが誇る2人のトップスターを「その気」にさせるオリンピックスタジアム。来年の5月27日、聖地に姿を現すのは何処やら。例年にましてヒートする熾烈な戦いは2ヵ月後に幕開けする。