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セリエB狂想曲。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2006/09/27 00:00

セリエB狂想曲。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 再出発したユベントスを迎え入れたセリエBが、ブレイクしている。9月9日の開幕戦でサッカー界の「名門」を招いたリミニの市営スタジアムは、創設以来の記録的な観客動員数を記録した。開幕戦のチケットを手に入れようと5日前から徹夜するサポーターもいれば、偽造チケットでスタジアムに進入しようとした20人のサポーターが警察に身柄を送検される“事件”もあった。今までセリエAはともかく、セリエBでこのような例はない。

 第3節のクロトーナ戦では、スタジアムに隣接するクロトーナ市立総合病院がユベントス戦の試合時間帯を来客禁止にするという珍事があり、国民の笑いを誘った。病棟の窓越しから試合が見られるコストゼロのシチュエーションに、サポーターが襲来してくることを阻止するための対策である。

 前代未聞のイベントに、地元企業もビジネスに余念がない。クロトーナでは19日のユベントス戦に向けて「9月19日のクロトーナ−ユベントス戦に私はいた」と書かれたTシャツを某社が販売。飛ぶように売れた。さらにクロトーナの公式ユニフォームの右胸元に「クロトーナ−ユベントス2006年9月19日」と刻印されたというニュースもあった。

 ユベントスサポーターは1500万人と言われる。これはイタリア国民の30%弱を占める数字だ。さらに今シーズンは、名門の降格にともない「にわかユベンティーノ」、つまり野次馬的サポーターが急増した。何を隠そうアンチユベントスの私もユベントスの試合を夢中で観ている「にわかユベンティーノ」である。この珍現象でセリエBの観衆は、前季より28%増えた。TV視聴率は上がり、新聞の紙面が倍増するなど、セリエBの人気はうなぎ登り。最近では「セリエA2」などと呼ばれ、先輩格であるセリエAのお株を奪いつつある。

 一方で、「本命」を失ったセリエAは、昨季に比べて総計8万3千人の観衆減。スタジアム離れが深刻化している。開幕直前まではユベントスの降格を嘲笑っていた各クラブも、ユベントス不在がもたらす収益ダウンに頭を抱えている。

 さて、ユベントスの実力は?W杯優勝メンバーを擁していても、スピーディに進化したセリエBでは簡単に勝てないことを開幕のリミニ戦の結果(1−1の引き分け)が物語っていた。「気の緩み」と苦言を呈したデシャン監督は、選手たちに豊富な運動量を望み、さらにメンタル面でもセリエBモードに切り替えるよう指令。「走らねば勝てない」サッカーに徹底したクロトーナ戦では、今季初の完封勝利を飾った。

 セリエBでのプレーを拒否していたイタリア代表MFカモラネージも、その日めでたくセリエBデビュー。カモラネージの起用で攻撃陣に俊敏さが加わり、相手ディフェンスを崩してチームは3ゴールを奪った。第3節は上位のボローニャ、ジェノア、宿敵ナポリが黒星を喫したことで、この勝ち点3は価値あるポイントとなった。ペナルティのマイナス17で、ユベントスは相変わらず最下位だが、一新した「名門」が今季どこまで上位に食らいつけるだろうか?降格処分の雪辱はゲームで晴らすしかない。

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