日本代表、2010年への旅BACK NUMBER
【W杯アジア最終予選/vs.カタール】
チームが思考不全に陥った時、
本田圭佑が……吠えた!
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/06/11 13:45
膠着した状態なら……“個”の突破も必要と判断した本田。
周囲との連係うんぬんの発想よりも、この場面は個で押し返すべし――。
そんな本田の考えが見てとれた。本人はどう思って、プレーしたのか。
「できるだけ(選手の)距離を縮めて、常にパスコースが2つも3つもあるようにサポートするのが、今の僕たちのサッカー。それがはまったときというのはきれいなパスサッカーになる。でもきょうの試合に限っては、それができなかった。結果論かもしれないけど、この試合に限って僕は(ピッチを)広く使うほうがいいんじゃないかと感じた。サイドから仕掛けて、相手のラインも下がったんでね。(チームは)ボールをもらったらパス(コース)を探していたような気がした。強引なところもなければならないんじゃないか、と僕は思いましたけど」
やみくもに、自分の持ち味を押し通そうとしたわけではない。ベンチから冷静にピッチを眺め、状況を打開する発想を携えたうえでピッチに入り、一旦決めたら迷うことなく積極的にプレーしたことで、チームのギアが変わった。最近、指揮官がよく使う言葉で例えるなら「スイッチが入った」瞬間でもあった。
日本が放った12本のシュートのうち、本田が入った最後の10分間で3分の1となる4本のシュートを放っている。本田の意思が、行き詰まったチームに発想の転換をもたらしたと、言えるのではないだろうか。
本田圭佑は“チームのギアを変える”スーパーサブである。
Number730号での、W杯本大会を経験した中西永輔氏と福西崇史氏の「経験者対談」を聞いていて興味深かったのは、世界と戦うためには「プレーにアイデアが必要」「意外性のある選手が必要」と訴えたことだった。中村俊輔や遠藤保仁らがこの部類に入るわけだが、本田のように、また別の発想=アイデアを持ちこむ選手がいれば、それだけオプションとして広がりを持つということだ。しかも自分のメッセージをより早く、より強い形でチームに伝えられるという特徴が、この本田にはある。
勝負どころで使われる本田の起用法を見るにつけても、岡田監督は「スーパーサブ」として本田のプレー、そしてアイデアに大きな期待を懸けているように思える。
「いつも岡田さんからは、自分のいいところをしっかり出すように言われています」
本田圭佑というプレーヤーが、チームのギアを変える強烈な存在であることを確認できたのは、この試合の少ない収穫の一つだった。