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フィル・ジャクソンの究極スター操縦法。~ジョーダン&コービーを育てた男~ 

text by

宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

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photograph byYukihito Taguchi

posted2010/01/17 08:01

フィル・ジャクソンの究極スター操縦法。~ジョーダン&コービーを育てた男~<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

オニールを真のエースに成長させるために与えた試練。

 レイカーズのヘッドコーチになって3試合目、ジャクソンは試合を終えてロッカールームに戻るオニールを引き止め、聞いた。

「ウィルト・チェンバレン('60年代から'70年代にかけて活躍した名センター)が成し遂げたことの中で、一番大きな実績は何だと思うかい?」

「1試合100点をあげたことでしょう?」とオニール。

「いいや、違う」とジャクソン。「彼は'61-'62 シーズンの全試合、ほとんどすべての時間、試合に出た。ベンチに下がったのはオーバータイムの試合での2分間だけだった。だから、そのシーズンの平均の出場時間は48分を超えていた。君もそれと同じことをできるかい?」

 当時のオニールは27歳。プロ8シーズン目を迎え、心身ともに自信をつけ、歴史上での自分の位置について考えるようになってきた頃だった。オニールとの比較でよく名前が挙げられるチェンバレンのエピソードを引き合いに出せば、必ず食いついてくるとわかっていての挑戦だった。

 予想通りオニールは「もちろん、できますとも」と受けて立った。そして、ジャクソンはその次の試合から4試合連続でオニールを48分間フル出場させたのだった。

 NBAを支配するだけの圧倒的な体格と運動能力に恵まれていたオニールだが、試合を通しての集中力と体力に欠けているという弱点があった。フリースローが苦手で、エースでありながら勝負どころで頼るわけにはいかなかった。若くて野心家のブライアントからするとそれが物足りず、2人は衝突することが多かった。

 レイカーズがひとつにまとまり、優勝できるチームに成長するには、オニールがレベルアップし、自他ともに認めるエースになる必要があった。そこでジャクソンは、オニールに目の前に乗り越えるべき山があることに気づかせようとしたのだった。

自尊心をくすぐりながら、チャンスを与え続ける。

「試合を通してプレーするためには、それだけのスタミナ、コンディションが必要だった。フル出場させることで、コート上でどれだけ努力しなくてはいけないのかに気づかせるとともに、彼に対してどれだけのことを期待しているのかを示したわけだ」とジャクソンは当時を振り返る。

 ただ単に「スタミナをつけろ」「集中力を高めろ」と言うのではなく、自尊心をくすぐり、チャレンジを与え、その中で自覚をうながす。それが、ジャクソン流のスーパースター操縦術だった。

 オニールは言う。

「フィルは心理学の天才だ。批判するときも心理学を使ってくる。僕のモチベーションを高め、一生懸命練習するように、わざと怒らせたりもする」

 そんな心理戦を仕掛けられているとわかっていながら、それでもジャクソンの手の上で踊ってしまうのは、ジャクソンが自分を選手として認め、成長することを第一に考えているとわかっていたからだった。

【次ページ】 スーパースターの才能を生かすには、否定よりも肯定を。

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