プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ベンゲルを巡って観客が乱闘……。
外資の買収でアーセナルが激変か?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2011/04/28 10:30
2010-2011シーズン終了までで、アーセナルの監督を15年間務めることになるアーセン・ベンゲル。来季以降、新しい外国人オーナーはクラブ史上最も長く指揮を取っている名将をどのように処遇するのだろうか
「ベンゲル限界論者」と「ベンゲル絶対論者」の乱闘。
たとえば31節のホームゲームで目撃されたように、サポーター同士がベンゲル続投の是非を巡っていがみ合う光景など、かつてはあり得なかった。低迷中のブラックバーンを相手に0対0に終わった一戦で、指揮官を罵倒しながら席を立った「ベンゲル限界論者」に対し、「ベンゲル絶対論者」が意見して乱闘騒ぎに発展したのだ。
常識的に考えると、現時点での監督交代はナンセンスだ。
アーセナルでは、サッカーのスタイルはもちろん、選手の食生活からクラブハウスの造りに至るまで、ベンゲルの哲学が反映されている。その首を挿げ替えるとなれば、影響の大きさは外国人オーナー誕生を上回る。加えて、文字通りベンゲルが育て上げた現在のチームは、今季は終盤まで国内外でタイトルを争った。しかも平均年齢は20代前半と若く、これからが仕上げの時期に当るのだから。
ベンゲル支持者も即戦力の補強に関しては変化を望んでいる。
ただし、ベンゲルを支持するサポーターのなかにも彼に変化を望んでいる点がある。
すみやかにタイトルを獲るために、若手を獲得して育てていくという“補強ポリシー”を変え、即戦力を獲って欲しいということだ。そして、この変化を実現するためにこそ、クロンケの資金力が必要なのである。
母国のNBAやNHLなど、他のプロ・スポーツ分野でも投資家の顔を持つクロンケは、『フォーブス』誌の長者番付に名を連ねる世界規模の大富豪だ。同番付には夫人もランクインしている。本人は、「アーセナルの健全経営を踏襲するつもりだ」と声明文の中で語っているが、財布の紐の堅さも従来通りとは限らない。評価額7億3100万ポンド(約990億円)のアーセナルを完全買収する資金も問題なく用意できるというのだから、必要と判断すれば相当額の補強予算も捻出できるに違いない。既に、今夏の推定予算は6000万ポンド(約81億円)と報道されている。
今季のアーセナルは、四冠の可能性に迫りながらも、国内外での「ここ一番」で勝てずにきた。ピッチ上には、結果を手にするための経験豊富な「勝ち方」を知る人材が必要だったのだ。キャプテンのセスク・ファブレガスは'05年のFAカップ優勝メンバーではあるが、当時のセスクは周囲のベテランに支えられる若手の1人にすぎなかった。逆に支える立場にある今、3月のCLバルセロナ戦第2レグ(1-3)でチームを苦境に陥れたのは、あろうことかセスクによる軽率なバックヒールだった。