日本テレビ解説者で巨人OBの高田繁が「原の顔を見てますとね、もう今シーズン限りということで決心している。顔に鋭さといいますかね、厳しさがどうしても出ないですよね。こうなるとなかなか打つのは難しいですよね」と辛辣な言葉を並べた直後に、三浦大輔から左翼席へ第5号決勝ソロアーチを叩き込む。興奮のるつぼと化した東京ドームのスタンドに向かって、一塁側ベンチ前でまるでメジャーリーガーのようにヘルメットを掲げて大声援に応えてみせる原がいた。そして、ヤクルトの優勝が決定した翌日の10月1日、ついに神宮のクラブハウスで長嶋監督に現役引退を報告するのだ。

1995年10月1日、長嶋監督に現役引退を報告した直後の原辰徳　©KYODO

　1995年10月8日、東京ドームで行われた広島戦が原の引退試合となった。消化試合のデーゲームにもかかわらず、日本テレビの瞬間最高視聴率は32.4％を記録。「4番三塁」で先発出場した原は、7回に紀藤真琴から第6号の通算382号アーチを放ち、有終の美を飾る。4番原の一打をホーム付近で出迎え、「お疲れさん」と言わんばかりに控え目に右手を差し出し、軽く握手を交わすのは次打者の落合だった。タツノリ・コールが鳴り響く中、オープンカーに乗り場内一周すると、最後は背番号8が長嶋監督と涙の抱擁。それは数年後に、華やかなセレモニーは性に合わないと代打で一打席だけ立ち、出待ちしているファンと握手をして静かに現役生活に別れを告げた落合とは、対照的な引き際でもあった。

1995年10月8日、原辰徳の引退試合。最終打席終えた後、落合博満と握手を交わした　©Sankei Shimbun

引退スピーチ「巨人軍には“聖域”があります」

　この日、引退スピーチで、原が口にした「巨人軍は巨人軍独特の何人も侵すことのできない“聖域”があります。私はこの15年間、それを肌で感じ、守って参りました」という言葉が注目を集めたが、この「聖域」とはいったいなにを指していたのだろうか？

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