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「やってらんねえ!」中村俊輔や小野伸二に焦って不満爆発…“プロ失格”と言われたストライカー北嶋秀朗の再生物語「工藤壮人に託したレイソル愛」 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byToshiya Kondo

posted2024/01/19 17:01

「やってらんねえ!」中村俊輔や小野伸二に焦って不満爆発…“プロ失格”と言われたストライカー北嶋秀朗の再生物語「工藤壮人に託したレイソル愛」<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

柏レイソル時代の北嶋秀朗。2011年、クラブ史上初のリーグ優勝に貢献した

 サッカーへの理解が深まり、ストライカーとして進化する内面とは裏腹に、長年にわたってDFと激しいバトルを繰り広げてきた肉体、とりわけ膝は慢性的な痛みを抱えていた。

 そうした肉体的な衰えに加え、09年に再びJ2に降格したこともあって、若返りを図るチームにおいて、北嶋は出場時間を減らしていった。

「もともと(当時の監督である)ネルシーニョには評価されてなくて、10年夏にはその年限りでの契約満了を言い渡されたんですよ。でも、反骨のスイッチが入って練習試合でハットトリックを連発したら、起用せざるを得なくなったのかメンバーに入れくれて。その試合でアシストして、その後2試合連続ゴールを決めて、契約延長を勝ち取ったんです」

 J1に復帰した11年シーズンも開幕当初はレギュラーではなかったが、ゴールを連発してポジションを奪い取る。首位に返り咲いて迎えた10月22日のサンフレッチェ広島戦ではゲーム終盤に北嶋が2ゴールを奪ってチームを勝利へと導いた。これで勢いに乗った柏はJ1復帰即優勝という偉業を成し遂げるのだ。

 北嶋は間違いなく、リーグ優勝の立役者のひとりだった。

 しかし、北嶋が愛するチームを去るときは近づいていた。

後輩・工藤壮人に託したレイソル愛

 12年4月28日のサガン鳥栖戦でシーズン初ゴールをマークした北嶋は、3日後のACL・ブリーラム戦でも好パフォーマンスを披露する。ところが、5月6日の広島戦に2-5と敗れると、続く川崎フロンターレ戦ではスタメンから外れるどころか、ベンチ外となる。

「話にくい、話したくない出来事が起きてしまって……。切磋琢磨してきた工藤に『もう一緒にできなくなりそうだから』って。『俺、レイソルのことをマジで大事にしてきたから、この気持ちをお前に受け取ってほしいんだ』と伝えたのは覚えていますね。2人で泣きながら」

 ロアッソ熊本への期限付き移籍が発表されたのは、約2週間後のことだった。

 指揮官の低い評価を覆し、J1昇格、J1優勝に貢献することで契約を勝ち取り、愛するチームのために尽くしてきたが、幕切れはあっけないものとなった。

 しかし、指導者となった北嶋は、それでも言うのだ。「ネルシーニョからも影響を受けました」と。

「勝ちへの執着心は、他の誰よりも強かった。例えば、JFLのチームが練習試合の相手として来てくれて。相手が『後半はJFLの公式球でやってもらえませんか』と頼んできても、絶対にノーなんです。これが俺たちの公式戦のボールだからと。練習試合でも絶対に勝ちたいんです。そこまで真似しようとは思わないですけど(笑)、勝負の世界では大事なことだな、とは思いますね」

 北嶋を熊本に呼び寄せたのは、かつての恩師である池谷だった。クラブの社長を務め、13年夏に監督に就任した池谷とともに熊本で1年半戦った北嶋は、13年シーズン限りでスパイクを脱いだ。

 引退発表は10月17日だったが、引退を決めたのはフル出場を果たした7月14日のFC岐阜戦後のことだった。

「僕は07年、08年って1点しか取れていないんですけど、点が取れなかったら引退すると決めて臨んだ試合で点を取った。09年以降もずっとそうだったんですけど、13年の岐阜戦ではついに決められなかった。それで引退を決めました。それが自分との約束だったので」

 こうして14年から指導者の道へと進んだ北嶋はさまざまな出会いを経て10年後、いよいよトップチームの監督として歩み始めることになる。

第3回へつづく)

◇ ◇ ◇

「監督・北嶋秀朗」を紐解くインタビュー第3回では、コーチ業を通して大きな影響を受けた5人の日本人指導者の存在を明かした。

#3に続く
中村憲剛、内田篤人とS級受講…コーチ業10年で悲願「監督・北嶋秀朗」をつくった5人の指導者とは?「亀仙人と鶴山人から学べたのは僕だけ」

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