「周りは『蹴れ、蹴れ』って言うてましたけどね。承信の練習ぶりを知っている人のなかには、蹴っていれば決めていたはず、と言う人もいます。本来は私が『責任は取るから自信を持って蹴ってこい』と言っていればよかった。でも、承信がまだ1年生だったこともあり私自身が躊躇してしまいましたし、承信もビビってしまったんでしょう。

　試合のあと、会場で後片付けをしていたら承信がたまたま近くに来たので『もし蹴れと言うとったらどうやった？』と聞きましたが、『たぶん無理でした』と。それで『次はどこからでも狙えるように練習しような』と言ったら、『わかりました』って。辛い経験でしたが、私は指導者として、承信はプレーヤーとして、互いにあのシーンに成長させてもらったような気がします」

大阪朝鮮高時代の恩師・権晶秀さん（右）と李承信（真ん中）

衝撃的な小6「あいつ誰なんだ？」

　大阪朝鮮高3年時に副将として、キャプテンの李承信を支えた徐和真（ソ・ファジン）さんは、小学生時代の承信との出会いをよく覚えている。

　徐さんは当時、関西でも1、2位を争っていた強豪・尼崎ラグビースクールでプレーしていた。一方の李承信は、神戸市を拠点にした兵庫県ラグビースクールに通っていた。小学6年のある大会で2人の所属するチームは対戦し、試合は尼崎ラグビースクールが順当に勝利する。だが、徐さんたちには敵チームに強烈な選手がいたことが印象に残る。

「僕らのチームは強かったので、普段はトライすらあまり取られないんです。ただ、その試合は相手に1人だけすごい奴がいて、トライをバンバン取られて。1試合4、5トライくらい……1人にそんなに取られたのは初めてでした。それで『おい、あいつ誰なんだ？』となったのが承信だったんです」

大阪朝鮮高時代の徐和真さん（左）と李承信

毎朝5時半起き「誰よりも早く練習していた」

　大阪朝鮮高を卒業後は法政大に進学し、22年度（関東大学リーグ1部）にはラグビー部の共同キャプテンも務めた徐さんは、承信について「パス、キックの質はもちろん、高校時代からラグビーの理解力が図抜けていた」と証言する。

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