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「期待しないでくれよ」新ストッパー指名でも、ふてぶてしさ炸裂! カープ矢崎拓也の2023年版“投げる哲学者語録”

posted2023/05/22 11:00

 
「期待しないでくれよ」新ストッパー指名でも、ふてぶてしさ炸裂! カープ矢崎拓也の2023年版“投げる哲学者語録”<Number Web> photograph by KYODO

慶應大卒で現在28歳の矢崎。ふてぶてしいのか天然なのか、独特の言葉はファンの間でしばし話題となっている

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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 チームやファンの中に少なからずあった喪失感に似た感情を埋めたのは、ふてぶてしさすら感じる投手だった。

 開幕から中継ぎが課題とされた広島は今、守護神として中継ぎ陣を支えてきた栗林良吏を欠く。わずか2年で絶対的守護神となった右腕は5月1日、「右内転筋筋挫傷」によって戦列を離脱。開幕から奮闘を続けていた中継ぎ陣がぐらついても不思議ではない状況で、代役を担ったのは矢崎拓也だった。

 僅差の9回を締めくくる役割は、務めた投手にしか分からない苦しさ、難しさがある。さらに、昨季までほぼ失敗がなかった栗林と比べられもする。

 周囲が期待と不安の入り交じる感情を抱く中、当の本人、矢崎は疑いたくなるほど冷静だった。

「この展開で(マウンドに)上がったらどんな感情になるんだろうって、思ってたら、“へぇ、こんな感じなのか”というくらい。もっとうわぁっとなるのかなと思っていたら、普通でしたね」

 昨季途中からセットアッパーに定着した矢崎だが、新たなポジションに重圧を感じている様子はない。

栗林の代わりになれるわけがない

 5月9日の中日戦、初めてセーブがつく9回のマウンドを託された。スコアは1-0。2投手が無失点でつないできたバトンを受け取り、表情ひとつ変えずに長良川球場の荒れたマウンドに立った。

 中日打線の中で売り出し中の新人・福永裕基を力で遊ゴロに打ち取ると、ダヤン・ビシエドにはフォークを多投した。初球のファウルにこの日のフォークなら打たれないと覚悟を決め、5球続けてバットに空を切らせた。最後は木下拓哉を直球で空振り三振で締めた。

「僕は栗林じゃないので、栗林の代わりになれるわけがないし、栗林の代わりになってくれと期待されてマウンドに上がっているわけじゃない。『僕がやるべきことをやればチームのためになる』と思われているんじゃないかと考えて(マウンドに)上がっている」

 外的要因には左右されない。「意識しない」という考えでもない。「意識しない」は意識しないように「意識している」ことになるからだ。立場や状況が変わっても、ここまで歩んできた自分を表現するのみ。強がりでも、虚勢でもない。セットアッパーからストッパーとなって試合の最後を締めても、相変わらずガッツポーズも叫び声を上げることもしない。矢崎は矢崎のまま。そんな姿が頼もしい。

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