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「正直ツラい…」文武両道エリート・東大野球部四番バッターが社会人野球で痛感した“差”「理屈だけだと東大レベルで終わっちゃう」 

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沼澤典史

沼澤典史Norifumi Numazawa

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photograph bySankei Shimbun

posted2022/07/10 11:01

「正直ツラい…」文武両道エリート・東大野球部四番バッターが社会人野球で痛感した“差”「理屈だけだと東大レベルで終わっちゃう」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

昨年9月、立教大を破って喜ぶ東大の井上慶秀(中央左)。東大野球部四番バッターだった井上は社会人野球の三菱自動車岡崎へ進んだ

「チームの先輩方からバッティングについてアドバイスをいただくことがあるんですが、みなさんいずれも打撃フォームではなくて、タイミングの話をします。結局は、いいタイミングを取り、いいポイントで芯に当てれば、打球速度も出るのでヒットになるからです。東大時代は、どんな打球角度がいいか、どんなスイングがいいかといった打ち方に重きを置いていて、タイミングというファクターを無視しすぎていました。実際、大学時代の僕のバッティングも、いつも微妙に差し込まれていたことを思い出します」

 もちろん、テイクバックを始めるタイミング、前足をステップするタイミング、体重移動するタイミングなどを定量化することはできるだろう。だがそうやって頭だけで理解するよりも、打席に多く立って、ピッチャーが投げるボールで自然と感覚を養うことが重要だと井上は言う。

「僕の同期の野球継続者たちとは、卒業後も互いに連絡を取り合っていますが、やっぱりみんなも思うところは一緒。それぞれのチームのうまい選手たちのプレーを見ると、そこまで理詰めではやっていないんですよ。理屈だけを考えていると結局は東大のままのレベルで終わってしまうという危機感は、みんなが持っていますね」

 野球には理屈を超えたものがあると、学業のエリートである東大出身者が言うのだから、きっと真実なのだろう。だが大学時代、理詰めを重ねて勝利を手にした当人にとって、この現実はショックではないのか。

「理屈を超えるものがあると認めるのは正直辛いですが、大学時代からも薄々気づいてはいたんです。他大学の上手な選手は理にかなった打ち方や投げ方をしているかと言われれば、そうでもない。彼らは自分がやりやすいようにやっているだけなんです。本当に上のレベルのプレーをするには、理論とプラスアルファのもの、例えば根性やセンス、メンタルが必要だと、社会人選手を見て、確信しました。データを分析して努力の方向性が正しいのかを考える癖は東大で養われましたが、今後はそれとは別の感覚的な部分ももっと大事にしていかないといけないと思っています」

ソフトバンクで感じた「アマチュアとプロの差」

 一方、福岡ソフトバンクホークスのGM付データ分析担当として活躍している齋藤周は、プレイヤーの井上とは別の面で、東大時代との違いを感じているという。

「アナリストとしての根本的な考え方としては、東大時代はハイリスクハイリターン。コケてもいいから、ハマったときに大きく跳ねるような戦い方で、かつ選手には100%の力を発揮してもらう必要がありました。逆にプロ野球では100%の力が出せなくても、勝てるような戦い方が求められます。ほぼ毎日試合がある中で、選手は1年間通して安定したパフォーマンスが求められます。80%の力でも結果が出るような方法を我々も考えなくてはならないです」(齋藤周)

 試合数が多いことに起因する、アマチュアとプロの仕上げ方の違いもある。

【次ページ】 ソフトバンクで感じた「アマチュアとプロの差」

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