だが、それでもアディショナルタイム（93分）に1点差に詰め寄られた。われわれは後退を余儀なくされ、時間とスペースを得たメッシは縦パスをアグエロに送った。守備のバランスは非常に悪く、選手間の距離がうまく保てない。ラファエル（・バラン）が下がりすぎたので、ベンジャマンが内に寄せてスペースを埋めねばならなかった。彼らふたりで左のゾーンをカバーし、パスの出し手であるメッシと受け手のアグエロをケアしたが、状況は深刻だった。彼らは同点のチャンスを作り出し、実際に得点していてもおかしくはなかった。

アグエロが入ったことで、フランスの守備は中央寄りになることを強いられた。カンテがふたりのCBの間にポジションを取り、トリソとポグバが中央のゾーンをケアした

　ただ、私自身は何も不安を感じていなかった。レフリーが試合終了の笛を吹くまで、私は何も心配はしない。それは選手のときも、監督になった今も同じだ。

心に残るシーン《グループの連帯感》

　どのシーンが最も強く印象に残っているかは、今でもこれとは言えない。ただ、ひとつあげるとすれば、サブの選手たちがピッチサイドでアップを済ませて、相手の攻撃を阻止するためにピッチに入っていくシーンだ。グループの連帯感を象徴する場面だった。

　攻撃面ではもの凄く効率的な試合だった（4本の枠内シュートで4得点）。自分たちの本物の力を引き出せたといえる。やるべきこと、口にしたことを実践し、キャラクターの強さや冷静沈着さ、コレクティブな力を誇示することができた。

　もちろんすべてがうまくいったわけではないのもわかっている。だが、われわれはたしかな存在感を示したし、自分たちの力や連帯感の強さを疑っていなかった。緩んだところはまったくなかった。

　この試合が大会の分岐点となった。ここからすべてがいい方向に向かっていった。しかも舞台はラウンド16で、相手はメッシのアルゼンチンだ。プレーの強度とクオリティ、展開のシナリオ、スタジアムの雰囲気も、すべてが申し分なかった。

　われわれはそんな試合に勝ったんだ。