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丸佳浩とカープ、必然の別れ。
FAは忠誠心の踏み絵ではない。 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph byKyodo News

posted2018/12/05 11:30

丸佳浩とカープ、必然の別れ。FAは忠誠心の踏み絵ではない。<Number Web> photograph by Kyodo News

丸は11月7日にFA権の行使を表明し、11月30日に巨人への入団を決めたと発表した。

'19年以降も主力がFA権取得。

 親会社を持たない広島は健全経営を貫く必要がある。今オフは丸だけでなく、松山竜平もFA権を取得していた(宣言せず残留)。翌年以降も順調にいけば、来年には會澤翼、野村祐輔、菊池涼介、今村猛。2年後には田中広輔がFA権を取得する。

 条件の上積みをしなかったのは、主力選手が相次いで取得する流れに備えた狙いもあっただろう。目先の慰留に全力を注いで、近い将来に球団経営が回らなくなっては元も子もない。

 また今オフのオリックス金子千尋のように長期契約を結び、減額制限を超える減俸提示で球団を去るような形は両者にとって好ましくない。

 広島は過去にもFAで主力を流出させた苦い経験がある。低迷の要因にはなったものの、そこからフロントと現場が一体となって努力と工夫を重ねて、セ・リーグ2球団目の3連覇という偉業を成し遂げるまでになった。

 隆盛を長く続けることは難しい。人材だけでなく、資金も必要となる。マネーゲームには参加できない。それはある意味で「おらが町のカープ」にとっては避けられないものかもしれない。

 丸と広島にとって、この結末はある意味で必然だったのかもしれない。

FAは忠誠心の踏み絵ではない。

 ただ、「おらが町のカープ」を支えるファンは、そのはざまでジレンマにうちひしがれているようだ。移籍した丸への声は厳しく、ネットでは心ない誹謗中傷までも上がっている。高卒での入団から11年、成長していくサクセスストーリーを見てきたからこその愛が、憎しみとなってしまったのかもしれない。

 それでも、1日にして「おらが町のヒーロー」が「裏切り者」となったような扱いは理解に苦しむ。この11年間で、丸が広島に残したものは大きい。セ・リーグ2球団目の3連覇に大きく貢献し、2年連続で最優秀選手賞を受賞した功績はいつまで経っても色あせない。

 FAは入団した球団への忠誠心を問われる“踏み絵”ではない。あくまでも選手の権利である。

 悩んでいた姿はチームメートも見ていた。「結構悩んでいた。あの人が出した結論なら仕方ない」と鈴木誠也が言えば、大瀬良も「あれだけ悩まれているのなら、どういう結論を出しても、丸さんが正しかったと思える道に進んでくれたらいいなと思う」と話していた。

【次ページ】 「おらが町の英雄」という重さ。

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丸佳浩
広島東洋カープ

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