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白鵬が浴びた大阪のシビアなヤジ。
「銭の取れる相撲」に値しない千秋楽。 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byJMPA

posted2016/04/05 11:00

白鵬が浴びた大阪のシビアなヤジ。「銭の取れる相撲」に値しない千秋楽。<Number Web> photograph by JMPA

白鵬はこれで4場所ぶり、36度目の優勝。自身の持つ史上最多優勝記録を更新した。

忘れてはならない“興行”としての側面。

 この時の観客の落胆や怒りは、白鵬の国籍とはまったく関係ない。白鵬を「大横綱として認識している」からこそ、大きな期待があるからこそのブーイングだったと言える。平幕力士や、カド番脱出が掛かった大関の注文相撲にため息は出ても、あそこまでのブーイングは出ることはないからだ。

 大相撲とは神事の側面があり、格闘技である。そして忘れてならないのは、お客さまありきの“興行”だということだ。相撲界では「銭の取れる相撲」という言葉がある。常人には到底できない、技と体を駆使した男たちの戦い。それを見んがため、入手困難で高額なチケットを手に、ファンは電車を乗り継いで遠方から脚を運ぶ。白鵬のあの変化は、まさに「銭の取れる相撲に値しなかった」ということにほかならない。

 どの世界でも、プロは客を満足させてナンボなのである。「さすがやなぁ。いいもん見させてもろうたなぁ」と期待以上のものを提供してこそ、プロ中のプロ――横綱なのである。

“結びの一番”の価値。

 34歳の関脇として注目を浴びた嘉風が、かつてこう言っていたのを思い出す。

「今は、相撲が人気だからちょっと見てみようか、という人も多いと思う。でも、そんな人たちを惹き付けて本当の相撲ファンにしたい。そういう相撲を僕は取りたいんですよ。亡くなった北の湖理事長が、いつも『土俵の充実』とおっしゃっていたけれど、本当にそれが大事なんだと実感しているんです」

 そしてベテランの豊ノ島は、こんな思いを熱く語っていたことがある。

「相撲界に入って一番嬉しかったのは、結びの一番で土俵に上がれたこと。入門前、親父に『5時55分に相撲を取れる力士になれ』と言われ、それが叶ったんですよね」

 千秋楽、場所を締めくくる結びの一番――横綱同士の大一番だ。持ちうる力と技を見せつけ、大向こうをうならせることのできる最高の舞台、シチュエーションである。ここぞ横綱相撲の見せどころ。白鵬が破れれば、稀勢の里との優勝決定戦にもつれこむ。誰もが土俵上に釘付けになった刹那――手に汗を握る間もなく、それはあっけなく裏切られた。

 わずか1.1秒。

 白鵬サン、泣きたいのは観客でっせ……。

【次ページ】 曙や武蔵丸の「プロの仕事」。

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