プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“小ナベツネ”がチームを強くする。
清武騒動に思う「優秀な編成マン」。
posted2014/12/26 10:30
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Kyodo News
世の中には、見た目や人々の通念と現実が乖離していることがしばしばある。
例えば今年、流行語大賞の候補となった「カープ女子」で評判となった広島のチームイメージだ。金は無くても若手育成でチームを強化し、去る者は追わず。しかし、選手とチームが固い絆で結ばれて、メジャーに移籍した黒田博樹投手は、今でも日本球界に復帰するなら広島と考えている……。
こうした世のイメージには事実もあり、事実でないことも含まれている。ただ一つ、そうした広島のイメージと、恐らくかなりかけ離れたチームの現実として、松田元オーナーによる一元的支配があるのではないだろうか。
球界では鶴の一声がチームに影響を与えるワンマンの代表としては巨人の球団顧問である渡邉恒雄読売グループ会長兼主筆の存在が浮かぶ。もちろん渡邉顧問の巨人に対する発言権が絶対的な部分は多々ある。
ただ、広島における松田オーナーの存在は、より細部に至り、ある意味では渡邉顧問を凌駕するほどの絶対的権限を有している。もし機嫌を損ねると、それまで順調に進んでいたものもストップしかねない。その意に反した記事を書けば番記者は球団に出入り禁止となり、監督、コーチの人事もひっくり返ると言われている。広島の一つの特徴には、そういう個人商店的球団経営があるのである。
「あとはオーナーの気分次第です」――戦々恐々と球団関係者や番記者がそう語る姿こそが、広島というチームの意思決定システムを表している。
オーナーの一元的な意思決定が強さの理由?
ただ、近年躍進する広島の強さとは、この一元的な意思決定システムにあるのではないか、という見方もあるのだ。
どんなに優秀な助っ人でも、金がかかれば平気で手放し、新しい選手と入れ替える。フリーエージェントを引き止めない。「金を使わない。使えない」という同オーナーの方針だけは徹底して変わらないから、チームが弱体化して一時的に低迷してもファンは文句を言わない。それが結果的には新陳代謝につながって、若い芽が育ちチームは強化されてきた。
そして機が熟し、優勝を狙えるとみれば、これまでは認めていたポスティングでの移籍も保留して、前田健太投手のメジャー移籍も認めなかった。
それも松田オーナーの決断だったという。