欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
ストライカーか、オールラウンダーか。
久保裕也がスイスで悩む“スタイル”。
posted2014/12/05 11:00
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph by
AFLO
11月6日。本田圭佑の取材のために滞在していたミラノでのことだった。
“Pizza Napoletana”の看板がかけられたレストランの店内では、その日ナポリで行われていたナイトゲームの生中継が流れていた。イタリア南部からミラノに上京してきたであろう男たちが、皆愛する故郷のクラブの勝利を信じてテレビにかじり付いている。
対戦相手は、スイスのヤングボーイズ。試合の舞台はヨーロッパリーグ(以下EL)。中継中、一人の選手の顔がアップで映し出された。後半途中からピッチに投入されたその黒髪の東洋人は、水色のジャージを身にまとったナポリのDFに鋭い視線を送っていた。
久保裕也。その瞬間、尖ったような彼の表情がピッツェリアの大画面に大きく広がった。
「あの試合は、なんもできなかったですよ」
数日後、久保は自嘲気味にナポリの夜を振り返った。
とはいえ、そうした悔しさを痛感できること自体、数カ月前の彼の立場に比べればかなり前進した証でもあった。
故障での離脱、復帰後の苦戦。
8月にスイス・ベルンの地で話を聞いたとき、久保は怪我で離脱中だった。
今季の開幕当初は、立て続けにゴールを挙げるなど順調な滑り出しを見せたが、7月末の試合で負傷してしまったのだ。
「また復帰したら、ゴールを取っていきますよ」
取材の終わり際、久保はそう意気込んでいたが、現実は思うようにはいかなかった。
8月中には戦列に復帰するも、先発の座を取り戻すのは簡単ではなかった。出番はいつも後半の途中から、プレー時間も多くて20分と、結果を出すために十分な時間が与えられず、不満が募る日々だった。
久保が所属しているのは、ただでさえ欧州主要リーグに比べて日本では報道量の少ないスイスリーグ。シーズン初めは久保の活躍が何度か伝えられたが、いつしかそれも尻すぼみとなっていった。