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250本ペースでも不満顔の内川聖一。
打撃の哲学者が追求する「理想像」。  

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byNanae Suzuki

posted2014/04/28 12:00

250本ペースでも不満顔の内川聖一。打撃の哲学者が追求する「理想像」。 <Number Web> photograph by Nanae Suzuki

月間安打記録にも挑戦している内川聖一。日本を代表するヒットメーカーの技術は、細部までこだわりが詰まっている。

「どんなコースでも引っ張れるし、逆にも打てる」技術。

「バッティングのセオリーとして、『アウトコースは逆方向、インコースは引っ張れ』って教わるじゃないですか。でも、僕から言わせれば、どんなコースでも引っ張れるし、逆方向にも打てるんですよ。要は、ボールに対してバットを当てる角度の問題なんです。どのコースでも、引き付けて芯でとらえる方法はあるんです。もちろんいつでもできるわけではないから、究極の考え方ですけどね」

 そう言いながらも、内川にはこの“究極”を可能にする技術が備わっている。

 ポイントとなるのは左ひじだという。

 右打者にとって右ひじの使い方が重要だ、というなら理解しやすい。「ひじをたため」「押し込むように使え」。それによって最短距離でバットを出すことができるからだ。

 だが内川は、左ひじの使い方のほうが重要なのだと力説する。

基本のトス打撃でイメージ通りの打球を飛ばせるか。

「『バットを内側から出しなさい』『頭や体の近くから出しなさい』って言われると、必ず右ひじをたたみますよね。そうすると、バット全体が体の近くを通ってしまうわけですよ。でも、バットで使う部分って芯だけなんですね。

 じゃあ、そこを体の近くで通すためにはどうしなきゃいけないかっていうと、手を体から離さなくちゃいけないんですよ。だから、左ひじを前に出す。ヘッドは頭や体の近くで残ってくれるし、バットの芯は内側から出せるんで、どのコースにも対応できるようになると思うんですよね」

 しかしこの卓越した技術は、理論を突き詰めたからといって実践できるものではない。基礎という土台がしっかりと構築されていなければ全てが無意味なのだ。

 数ある打撃練習のなかで、内川が最も重要視しているのは、基本中の基本と呼ばれるトス打撃だという。

 二人一組となり、山なりのボールをバットの芯に当て、投手にワンバウンドで返す。あまりにも定番のメニューであるため、機械的にこなす選手が多いことだろう。しかし、ここで「どの角度でバットを出せば、自分が思い描いた位置に打球を飛ばせるか?」といった確認作業をすることが大切なのだと、内川は強調する。

「別に3人でもいいんです。ふたりに交互に投げてもらって、右側の人が投げたボールは左の人に返すとか。そういう決め事を自分で持ちながらバットの角度とかを意識して打ったりするだけでも、僕は感覚を養えると思うんですよね」

【次ページ】 ソフトバンク移籍2年目、開幕後は不調に陥ったが……。

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