野球善哉BACK NUMBER
登板過多の危険性を知るふたりの男、
藪恵壹と権藤博は新風を吹き込むか?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2011/12/25 08:01
コロラド・ロッキーズでプレーしていた頃の吉井理人投手(当時)を訪ねた権藤博氏。指導者になりたての頃から野球解説者だった時期も含め、長年MLBの指導ノウハウの勉強を欠かさなかった権藤氏らしいひとコマ。吉井氏とは一軍投手コーチ同士として、来年には対決することとなる
猛虎復活のカギは登板過多に悩む投手陣の再建にあり。
阪神はここ数年、特に救援陣のやりくりに苦労の色が見える。藤川球児という絶対的なクローザーがいながら、藤川につなぐまでの戦力が安定していなかった。昨シーズンは、藤川がイニングをまたいで登板するなど獅子奮迅の活躍を見せたが、シーズンの最後までベストパフォーマンスを保つことができなかった。今シーズンの藤川の登板はある程度守られたが、その分、藤川までのつなぎに苦慮した。
不調の小林宏に代わって台頭したルーキーの榎田大樹は、シーズン中盤までは存在感を見せつけたものの、登板過多で終盤には輝きを失った。その姿は、昨シーズンにブレークしながら終盤に失速した西村憲を見るようだった。
若い投手が台頭する阪神にあって、藪がどのような発信をして投手陣を再建するかは、身体のケアーも含め、重要になるだろう。
横浜監督時代に中継ぎのローテを確立した権藤博コーチ。
「権藤、権藤、雨、権藤」
現役時代の1年目に最多勝などのタイトルを独占しながら、登板過多が重なり投手としての野球人生を短くして球界を去った権藤博ピッチングコーチには実績がある。1998年に日本一に導いた横浜ベイスターズでは、中継ぎのローテーションを確立。絶対的クローザーの佐々木主浩には、シーズン終盤までイニングをまたいでの登板をさせないなど、徹底させたのである。
実は、権藤氏の原点になっているのは、コーチ時代に留学したアメリカ教育リーグでの経験だ。権藤氏は著書『教えない教え』(集英社新書)の中で、教育リーグで学んだことをこう記している。
「厳しく接する、あるいは、ハードトレーニングを課す。それを厳しさだと勘違いしている指導者がいるが、厳しく接するのも、ハードトレーニングを課すのも、精神的、肉体的にダメージを与えているだけであって、それは厳しさではなくて、イジメである」
権藤氏は73歳のベテランコーチだが、厳しさや根性論では何も生まれないということを知っているのだ。