MLB Column from USABACK NUMBER

ヤンキース 「ベイビー・ボス」の誕生 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2008/03/13 00:00

ヤンキース 「ベイビー・ボス」の誕生<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 4年前にヤンキースのオーナー、ジョージ・スタインブレナー(77歳)が倒れたとき、私が「一レッドソックス・ファン」の肩書きで見舞い状を送ったところ、スタインブレナーからユーモア溢れる礼状をもらった話は前にこのコラムで紹介した。

 そもそも、私がスタインブレナーに「早く元気になってね」と見舞い状を送った理由は、問題発言・放言で「ネタ」を提供し続けてくれる名物オーナーがいなくなったら、ベースボール・コラムニストとしての「商売」に差し支えるという自分勝手なものだった。幸い、私の祈りが通じたのか、スタインブレナーはすぐに回復、「ネタ」の供給を再開してくれた。

 ところが、ここ2年ほどは、老いのせいか、スタインブレナーが表舞台に出てくる機会はめっきり減ってしまった。「ネタ」となるような問題発言もまったく聞こえなくなり、「恐れていた事態がついにやってきたか」と思うと、私は一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。

 しかし、まるで、「もう、寂しい思いをする必要はないよ」と私を励ますかのように、今オフ、元気いっぱいに問題発言を繰り返して「ネタ」を提供し続けているのが、スタインブレナーの跡取りと目される長男のハンク(50歳)だ。「血は争えない」とはよく言ったもので、父親に負けない理不尽かつ不見識な発言の数々でファンを楽しませるとともに、ベースボール・ライターの仕事を楽にしているのである。

 問題発言の皮切りは、前監督ジョー・トーリが退団した際フロント批判とも取れる発言をしたことに反論、「偉くしてやったのは親父なのに恩知らずめ」と毒づいたことだった。続いて、ヨハン・サンタナのトレード交渉に当たって、交渉相手のツインズに「いついつまでに返事をしなかったら交渉は打ち切る」と最後通牒を突きつけるなど、「恫喝」発言を繰り返した(最後通牒は軽く無視された上、最終的にメッツにサンタナをさらわれたことは前々回書いたとおりだ)。

 「ボス」と呼ばれる父親ジョージを彷彿とさせる問題発言の連発に、当地のメディアは、即刻「ベイビー・ボス」なる仇名を進呈したが、3月2日付のニューヨークタイムズ・プレイ・マガジンに掲載されたインタビューでは、ライバルのレッドソックスに対して「言いがかり」としかいいようのない喧嘩を売り、「ボス」の後を継ぐ資質が十分以上に備わっていることを改めて天下に知らしめした。

 いわく、「『レッドソックス・ネーション』など、まったくのXXXX(印刷禁止用語)、レッドソックスと、レッドソックス・ファンだらけのESPN(スポーツ専門TV)がでっち上げたものでしかない。アメリカ中どこに行ってもヤンキースの帽子やユニフォームは見かけるが、レッドソックスの帽子やユニフォームなんか見たことがない。この国は『ヤンキー・カントリー』なのだし、ヤンキースをトップの座に戻すことで、宇宙に秩序を取り戻す」と。

 ベイビー・ボスがレッドソックス・ネーションについての事実誤認や勘違いをしていることはさておき、言いがかりをつけられたレッドソックス・ファンがカンカンに怒っているかというと決してそんなことはなく、逆に、面白がったり、喜んだりしている向きがほとんどである。なにしろ、ミッチェル報告以後、野球関連のトップニュースは、ドーピングがらみの不愉快な話題ばかりだったし、そういった不愉快な話題を忘れさせてくれる、威勢のいい喧嘩相手が現れたのだから…。

 ベイビー・ボスの「言いがかり」発言が伝えられた翌日、レッドソックス・オーナーのジョン・ヘンリーは、ハンクをレッドソックス・ネーションの名誉市民に推挙するとともに、市民証やデイビッド・オーティースのサイン入り帽子などを送りつけ、喧嘩の火が簡単に消えることがないよう、油を注ぐことを忘れなかったのだった。

スタインブレナー
ニューヨーク・ヤンキース

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