MLB Column from WestBACK NUMBER

プロ23年目の桑田が達した“境地”。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byThomas Anderson/AFLO

posted2008/03/18 00:00

プロ23年目の桑田が達した“境地”。<Number Web> photograph by Thomas Anderson/AFLO

 スプリング・トレーニングもいよいよ終盤に差しかかろうとしている。もう一度メジャーのマウンドに立つことを夢見て、昨年に続き招待選手としてパイレーツのスプリング・トレーニングに参加している桑田真澄投手は、今なおメジャー生き残りを賭けた戦いを続けている。

 3月16日現在でメジャーに残っている投手は26名。開幕ロースター枠は12人と目されており、すでにロースター入りが確定している投手を除くと、残り2〜3枠を15人前後で争っている計算になる。一度の失敗が命取りになってしまうような、厳しい現実である。この文章がアップされる頃には、すでに桑田投手がカットされている可能性も十分にある。だが今回桑田投手を取材して感じるのは、まったくといっていいほど悲壮感を漂わせておらず、地に足がついたというか、淡々とスプリング・トレーニングを過ごしているように見えるのだ。

 「僕はベストを尽くしてやるだけです。あとは上が決めることだから。なるようにしかなりませんよ」

 報道陣に囲まれると、必ずといっていいほど運命論者のような発言を繰り返す桑田投手。ある意味達観した境地で現実と向き合っているのではないだろうか。

 もちろん桑田投手にとって2年目のスプリング・トレーニングというのも大きい。まったく流れが掴めていなかった昨年とは違い、自分が置かれている状況や、自分がここでしなければならないことを理解できている分、精神的な負担がかなり軽減されているのは間違いないだろう。

 しかしその一方で、開幕が近づいて来るにつれ、オープン戦は徐々に主力投手の調整が最優先になってきており、招待選手である桑田投手の登板機会がなかなか確定しない現状が続いている。それを物語るように、クラブハウスに張り出されるオープン戦の登板予定表に桑田投手が入る場合、他の投手が名前の横に投球イニングを示す数字が書き込まれる中、数字ではなく「JIC」と書き込まれるのがほとんどだ。

 ──Just In Case(万が一の場合)──

 登板予定の投手が、不調で予定イニングを投げきれずに降板してしまう場合のバックアップとしてベンチ入りする投手を指すものだ。いつ登板が回ってくるかもしれない状況で、常にブルペンで待機していなければならないわけだ。もちろん日々の調整は決して楽なはずもなく、それでいていざ登板が回ってくればきちんと成績を残さなければならないのだ。

 「開幕メジャーを争っている投手たちにとって、決してベストな状況ではない。しかしそれは仕方がないことだし、スプリング・トレーニングとはそういうものだ」

 アンドリュース投手コーチの言葉を借りるまでもなく、桑田投手に限らず、彼と同じ立場の投手たちは皆同じ条件下にある。その中で結果を残したものだけしか生き残っていけないのだ。

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桑田真澄
ピッツバーグ・パイレーツ

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