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ヨハン・サンタナ移籍 「売り時」を見誤ったツインズ新任GM 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2008/02/06 00:00

ヨハン・サンタナ移籍 「売り時」を見誤ったツインズ新任GM<Number Web> photograph by AFLO

 2月1日、メッツが、「現役最高投手」の呼び声が高いヨハン・サンタナ(28歳)の獲得に成功した。ツインズがサンタナをトレード市場の「オークション」に出品した昨年11月の時点で、「移籍先はヤンキースかレッドソックスのどちらか、メッツ移籍の目はない」と見る向きがほとんどだった。それなのに、なぜ、一番不利といわれていたメッツが、今オフトレード戦線最大の「戦利品」を獲得することに成功したのかというと、その理由はツインズの新任GMが売り時を見誤ったことにあったので、今回は、この辺りの事情を説明しよう。

 まず、ツインズが、04・06年と二度サイ・ヤング賞を受賞した実績を誇る「大投手」をトレードに出さなければならなかった理由だが、今季終了後FA資格を取得するサンタナを引き止めるだけの財力がなかったからに他ならない。一応「ダメもと」で来季以降の契約延長をオファーしたものの、サンタナから「提示金額が安すぎる」と拒否され、「FAになって逃げられる前に、トレードで若手有望選手(=将来の戦力)と引き替える」以外に道は残されていなかったのである。

 しかし、「オークション」には出したものの、買い手として競りに参加したのは、サンタナに長期高額契約をオファーするだけの資力がある、ヤンキース、レッドソックス、メッツの3チームだけだった。ここで、昨季終了時に就任したばかりのツインズGMビル・スミスが立てた作戦は、「ヤンキースとレッドソックスのライバル同士を競り合わせてサンタナの値段をつり上げる」というものだった。

 はたしてスミスの作戦は見事に成功、12月の時点で、ヤンキースがフィル・ヒューズを主体とした複数トレードを提案すれば、レッドソックスも「ジャコビー・エルスベリーかジョン・レスターのどちらか一人」を主体とした組み合わせで対抗、両チームともチーム最高の若手有望選手をオファーする展開となった(メジャー最高の投手陣を誇るレッドソックスが、わざわざサンタナ獲得合戦に参戦した最大の理由は、「ヤンキースに行かせたくない。たとえ行かせたとしても、出来る限りの出費をライバルに強いる」ことにあった)。一方、この段階で、メッツがオファーした交換選手のセットは、ヤンキース、レッドソックスと比べてはるかに見劣りしただけに、最終的にメッツが獲得に成功するなど、誰も夢にも思っていなかった。

 後から振り返れば、ツインズにとってこの時点でトレードを決断していれば一番見返りが大きかったのだが、スミスがここで犯した間違いは、「まだ値は上がる」と、持久戦に持ち込んだことだった。「仮にサンタナを擁したままシーズンに入ったとしても、トレード期限は7月31日。たとえばヤンキースが投手不足で苦戦するような展開になれば、もっと値が釣り上がる」と踏んだのだが、ことはスミスの思惑通りには運ばなかった。

 思惑違いの第一は、時間が経つにつれてヤンキース首脳陣に「冷静さ」が戻ったことにあった。元々サンタナ獲得に積極的だったのは、老いが目立つ父親ジョージに代わって実質的オーナーを務めるハンク・スタインブレナーだったが、GMのブライアン・キャッシュマンは「多大の出費をしてまでサンタナを獲得するよりも、若手投手の成長に賭ける方が長期的には得策」と考えていた。レッドソックスとのサンタナ獲得争いが長期化する間に、キャッシュマンの粘り強い説得が功を奏し、スタインブレナーの頭を冷やすことに成功したのである。一方、対するレッドソックスも、元々「ヤンキースに獲られるのはイヤ」という理由が大きかっただけに、ヤンキースに冷静さが戻るのと同時に競りの値段を下げたのは言うまでもない。

 さらに、スミスにとって思惑違いの第二は、早期移籍を望むサンタナの気持ちが予想以上に強かったことにあった。1月に入って「キャンプ前に移籍が決まらない場合はシーズン途中のトレードには応じない」(サンタナはトレード拒否権を有していた)と通告され、ツインズとしては持久戦などしていられない状況に追い込まれた。2月中旬のキャンプ開始前にトレードを成立させなければならない羽目となったのに、ヤンキースとレッドソックスの競り合戦からは熱気が失われ、2ヶ月前には最低だったメッツのオファーが最高に変わってしまっていたのである。

 いま、アメリカ経済の不況のせいで世界同時株安が進行しているが、野球チームのGMも、取引対象が株ではなく選手であるだけで、「トレーダー」であることに変わりはない。市場の動向を見誤って売り時を逃せば、大損する運命が待っているのである。

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